第2回「マーケティングのデジタル化」と調査データ

2018/10/2(火)

デジタル時代の特徴的なデータの在り様は、

  • 1. リアルタイムであること
  • 2. APIで繋げば流れてくること(集まってくるデータであること)
  • 3. センサーデータなどの非構造化データも取り込まれること

などである。基本的にセンサーデータは、アンケートなどのような質問形式で調査対象者の意識を測るものではなく、無意識に起こる行動から意味を見出そうとすることになる。

例えば、商品の販売店内での顧客行動をカメラで捕捉することで、購買行動における要因分析が行えることは読者も周知のことと思う。カメラで映像化するとプライバシーを侵害する恐れもあるため、こうしたデータの取り扱いには課題も多い。しかし、映像をそのままサーバーに送るのではなく、特定の行動だけを認識しデータ化して送信することで、プライバシーの問題をクリアする方法もある。
その意味で、今後の調査データは、アンケートで集める意識データに限らず、集まってくるセンサーデータや移動データをリアルタイムダッシュボードに繋ぎこんで、マーケティング施策を最適化するために使われることになるだろう。そうしたデータを駆使して成果を出すためには、前提としての基本的な考え方が必要である。
それは「キャンペーンなどを含むマーケティング施策は、事前に最適なプランをつくることは出来ない」という大前提だ。事前にプランをつくり予算化して執行する従来の考え方は、往々にして達成目標が数値化されないままプランどおりに実行すること、つまりは予算を消化することが目的化しているケースが多い。

今はデータで、リアルタイムにマーケティング環境を把握できる。それが叶わなかった時代は事前の計画をそのとおりに遂行することでしかなかったが、今は違う。

マーケティング施策に対する消費者反応、競合ブランドの出稿状況、天候や世の中の話題になっているテーマ、ムード…そうした状況はデータ化され、常に把握できる。それであれば、大枠のプランで実行していくものの、変化に対応した運用でキャンペーン目標を達成するという考え方が必要なのである。

筆者は経営層に対するマーケティングコンサルにおいて、指標としての「7:2:1理論」を提唱し、運用型のキャンペーンなどのマーケティング施策実行の考え方を導入し始めることを指南することが多い。「7:2:1理論」とは、「7」は従来効果も確認されている施策に、「2」はまだ効果検証はされていないもののチャレンジすべき新しい施策に、そして「1」を予備予算としてキャンペーンなどの期中に最適と判断される施策に流動的に運用できるようにする、という考え方だ。
最初から多くの予算を運用型にするのはなかなか難しい面もあるだろう。運用型を導入するための掛け声としてトップダウンでこうした指標を投げかけることも硬直した従来のあり方を変えるためには必要だろう。
日本の企業は現場の適用力が高い。しかしそのため、部署ごとに最適化が進み、部門横断で全体最適が難しくしてしまう傾向がある。今に至っては、現場からのボトムアップのデジタル化には限界が出ている。ここはもうトップダウンでデジタル化の方針を指し示す時である。デジタルトランスフォーメーションには従来の部門編成を再定義して、新たな組織化も必要である。そのまえにトップからの部門横断の指針がなければならない。その意味での部門を横断した担務としてのCDO(最高デジタル責任者)を設けることが必要だろう。

さて、本題のマーケティングのデジタル化とデータについて話を戻そう。
では調査会社はこうしたリアルタイムでAPIを繋ぎこみ、マーケティング施策に有効なデータをどのようにマーケターに供給することが出来るだろうか?

筆者は、データは入り口の議論からでは、まったく成功が望めないと思う。調査というデータの入り口のプロデュースに留まるのではなく、マーケティング施策の打ち手(データの出口)から発想できるデータプロデューサーになるべきだということだ。
もうひとつは、今後マーケティングはAIによって因果関係を解明しなくても施策を自動最適化する仕組みが進んでいくことも考えられるということだ。 その際、調査で解明するというプロセスがなくなるケースもありうる。調査を設計し、実査するということ自体が意味をなさないかもしれない。 その意味でもマーケティング施策(打ち手)を熟知したデータプロデューサーとしてのリサーチャーが育成されなければならないだろう。

著者の紹介

横山隆治

横山 隆治

1982年青山学院大学文学部英米文学科卒。同年(株)旭通信社入社。1996年インターネット広告のメディアレップ、デジタル・アドバタイジング・コンソーシアム(株)を起案設立。同社代表取締役副社長に就任。2001年同社を上場。インターネットの黎明期からネット広告の普及、理論化、体系化に取り組む。2008年(株)ADKインタラクティブを設立。同社代表取締役社長に就任。2010年9月デジタルコンサルティングパートナーズを主宰。2011年7月(株)デジタルインテリジェンス代表取締役に就任。

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