第1回「マーケティングのデジタル化」と調査データ

2018/8/13(月)

筆者は「デジタルマーケティング」を“Webやアプリを使ったマーケティング施策”とする従来の概念から“すべての施策をデジタル(発想)で最適化すること”が「デジタルマーケティング」だという概念への展開を提唱している。

「デジタルマーケティング」を、“デジタルテクノロジーやデジタルデータを駆使して従来にはなかった価値を生み出し、マーケティング施策を劇的に改善したり、最適化を果たす行為”と定義すると、「マス」や「リアル」といういわゆるアナログ施策をデジタル発想で画期的に前進させることが「デジタルマーケティング」の真の狙いということになる。

チラシ、ダイレクトメール、営業マンのアタックリスト…といったいかにも「経験と勘」で行われてきた施策こそ「デジタルの力の見せどころ」ということだろう。

企業がその顧客と向き合うフロントラインでのデジタル化は今急務である。顧客である消費者が、先にデジタル化したこともさることながら、大きなパラダイムシフトで、「送り手から受け手に主導権が移ったこと」にすべての発想を転換しなければならない。「売り場」ではなく「買い場」と発想し、「テレビの編成権は視聴者にある」と考え、「ブランドは消費者がコントロールする」と意識する。そうした発想転換が「デジタル化」対応の大前提なのだ。

その上で、「デジタル化」の要素をあえて整理すると…

  • ①リアルタイム
  • ②高サイクル
  • ③データドリブン=ユーザードリブン

の3つになる。

リアルタイムに様々なデータが飛び込んでいる今の時代、それを活用するのはリアルタイムな施策実行である。ビッグデータがAPIに繋がることで、データは「集まってくる」のだ。それらは毎日、毎分、毎秒データである。マーケティングはリアルタイムの情報を解読して、リアルタイムに対応する時代だ。だから調査データもリアルタイム性を求められる。

筆者はマーケティングダッシュボードの概念を飛行機の操縦席(コックピット)にある計器類に例える。ダッシュボードがモニターと違うのは、操縦するためにダッシュボードがあるということだ。施策を運用するために、データはダッシュボードに表示される。それらは単なるデータではなく、打ち手をどうするかを決める情報(インフォメーション)であり、インサイトを発見する情報(インテリジェンス)である。

こうしたリアルタイム性は同時に「高サイクル」な施策運営を要求する。

ある出版社がWebやアプリに対応しているので「我々もデジタル化を進めています」というが、Webなのに入稿期限が40日前という「紙」と同じリードタイムを要求していたりする。これでは「デジタル化」しているとはとても言えない。「高サイクル」で企画・実行・検証・リプランニング…と回すことがデジタル化要素の1つである。しっかりとデジタル化している出版社もあるため、会社の「文化」としてのデジタル化が重要だ。

そして「データドリブン」ということは、これは取りも直さず「ユーザードリブン」ということでもあり、「仮説検証型」のマーケティングだけでなく、「文脈(インサイト)発見型」のマーケティングをビッグデータから発掘しようという試みであり、そこに従来にはない価値をもたらすはずだ。

データドリブンにリアルタイムかつ高サイクルな施策運用を実現するために、調査会社はマーケターにどんなサポートが可能だろうか…。

1つはサードパーティデータプロバイダーとしての調査会社、そしてもうひとつは、膨大なデータからマーケターにヒントを与える「情報発掘者」としての調査会社である。筆者もDMPの登場当時、書籍にDMPの効用を説いた。しかしDMPが企業のバックオフィスからフロントオフィスまでを連携するには、日本の企業内文化や意識のズレは大きかったようだ。そこで、バックオフィス側(データの入り口側)は、フロントオフィス側(打ち手によるアウトプット側)が施策ごとにデータ活用ができるように、CDP(コンシューマ・データ・プラットフォーム)を用意し、活用環境を整えるという考え方ができつつある。

データは入口ではなく出口(施策)から設計する

そうなると、打ち手を企画実施する側が、施策ごとにCDPのあるデータとそれだけでは足りないデータをサードパーティDMPから買って、施策の最適化を果たすという流れが確立するだろう。 このようなプレイヤーの1つとして、従来の調査会社はサードパーティDMP事業者の側面をもつ必要がある。調査会社は従来マーケターと擦り合わせて調査設計をしてきた知見を活かして、どんなサードパーティデータがそれぞれの施策の最適化に寄与するのかを指南する“データコンサルタント”となるべきだろう。

また、文脈(インサイト)発見型のマーケティングを普及させる原動力となるべく、調査会社がラボとして、マーケターの狙いを熟知したデータサイエンティスト集団となり、そして、マーケターがインナーでどれだけブレストをしても出てこない情報を提供できるようなプレイヤーに変身すべきだろう。

著者の紹介

横山隆治

横山 隆治

1982年青山学院大学文学部英米文学科卒。同年(株)旭通信社入社。1996年インターネット広告のメディアレップ、デジタル・アドバタイジング・コンソーシアム(株)を起案設立。同社代表取締役副社長に就任。2001年同社を上場。インターネットの黎明期からネット広告の普及、理論化、体系化に取り組む。2008年(株)ADKインタラクティブを設立。同社代表取締役社長に就任。2010年9月デジタルコンサルティングパートナーズを主宰。2011年7月(株)デジタルインテリジェンス代表取締役に就任。

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