「意見を聞くマーケティング」から「行動を把握するマーケティング」へ、そしてさらに「行動データと意識データを統合するマーケティング」へ

2017/5/16(火)

初回は「データドリブンなマーケティングとは何か」を、デジタルデータをデジタルテクノロジーを介して得られる画期性として、①リアルタイム性、②センサーデータなどの非構造化データの取り込み、③仮説検証だけでなく文脈発見型へ という3つの視点を提示しました。

そうしたことはビッグデータを定義する3つのV、つまりVolume(量)、Velocity(速さ)、Variety(多様)の要素がもたらしています。

さて、今回はこうした環境によって、マーケティング活動そのものとも言える消費者インサイトをあぶりだすプロセスがどう変わりつつあるかを考えてみたいと思います。

インターネット以前は、消費者調査の基本は「意見を聞くマーケティング」でした。アンケートによる定量調査やグループインタビューのような定性調査です。もちろん今でもマーケティングの対象者の考えや意識を探ることはたいへん重要です。これらがインターネットを介して自在にスピーディーに調査設計から実査、集計が可能になったことは実に画期的でした。

そしてインターネットは、もうひとつ対象ユーザーの行動を把握することができるようになったことでも画期的でした。

筆者はよく講演などで、「意見を聞くマーケティングから行動を把握するマーケティングへ」というパラダイムシフトを昔の体験から説明します。

その昔、テーブルウェアなどのマーチャンダイジングのために行ったグループインタビューの最後に「せっかくですからどれか1つお持ち帰りください」とおススメしたところインタビューに参加した女性6名全員がふつうの丸皿を持ち帰り、インタビューでは「家でぜひ使いたい」と言っていた比較的斬新なデザインのものには見向きもしませんでした。
この経験から筆者は、本質は行動に表れるのであって、必ずしも意見を聞くことだけでは本音は分からない。真理は行動にある。と考えたわけです。

このグループインタビューはインターネットが登場するずっと以前の話でしたが、その後ネットが普及し、アクセスログを解析する技術も進化して、匿名ながらも検索ワードや閲覧URLをそのユーザーのネット行動としてマーキングすることができるようになりました。
ネット行動だけとはいえ、初めて行動によるセグメント、行動によるターゲティングができるようになったわけです。

この手法はネットに閉じたマーケティングでは徹底的に活用されるようになりましたが、マーケティングをデジタル化するという「デジタルマーケティング」の視点から見ると、2つの要素が欠落しています。

ひとつはリアル行動データです。

当然ですが、生活者にとってネット行動は行動の一部でしかありません。メディア接触においてもそうです。興味関心の顕在化や、購入の意思決定などはネット行動ですべて把握できるわけはありません。

そして行動データの取得に、IoT時代の様々なデータが活用できることになりそうです。
スマホのロケーションデータや様々なセンサーデータです。
ネット行動に偏った「行動データ」ではなく、リアル行動をも取り込む時代となっています。

そして、もうひとつの欠落は、やはり意識データです。

ネットマーケティングは、全数で取れるがゆえに、非常に細かく、多数のセグメントに消費者行動を分けることができます。そうしたことができることは優位性ではありますが、意味なく多くのセグメントに分ける作業をしてしまいがちです。
よくネットマーケターの陥っている罠に、効率を求めてセグメントを絞ることに意識が行き過ぎて、肝心の「効果の絶対量」が見えなくなっているということがあります。
また、セグメントするからには、それぞれのセグメントに固有のメッセージがなければ意味がないのですが、同じメッセージでの獲得効率だけを追いかけるという施策に陥りがちなのです。

こうしたことは、ネット以前からあるマーケティングの本質がよく分かっていないことに起因しています。

マーケティング対象をセグメントしたりするには、ネット行動からだけのアプローチでは成立しません。

ユーザープロフィールをどう設定できるかを、デモグラフィカル、ジオグラフィカル、サイコグラフィカルに設計することは基本でもあります。

なかでもユーザーを意識クラスターで捉えることは非常に重要なマーケティング思考です。そして無数にセグメントをつくるというようなナンセンスなマーケティングではなく、使い分けるメッセージをしっかり設定できる範囲での消費者意識によるセグメントを設定することができなければなりません。

ですから、デジタルマーケティングでは、ネットマーケティングが陥っていた「ネット行動に頼りすぎた」「ネット行動しか見ない」マーケティングを脱して、リアル行動データと意識データをも取り込んで、「意見」と「意識」そして「意識行動」「無意識行動」をも統合したマーケティングが次世代のものとなるでしょう。

調査会社の役割は、従来の調査設計をしてデータを「取りに行く」だけでなく、常に収集されている全数系データからも、インサイトを発見するプロセスをマーケターに提供することになるでしょう。

ただ、そのためにも従来型アンケート調査でも、マーケターはスピーディーなデータ収集・解析のスキルを獲得しておくのが前提です。

こうした知見をベースに次世代型マーケティングにチャレンジしてほしいと思います。

著者の紹介

横山隆治

横山 隆治

1982年青山学院大学文学部英米文学科卒。同年(株)旭通信社入社。1996年インターネット広告のメディアレップ、デジタル・アドバタイジング・コンソーシアム(株)を起案設立。同社代表取締役副社長に就任。2001年同社を上場。インターネットの黎明期からネット広告の普及、理論化、体系化に取り組む。2008年(株)ADKインタラクティブを設立。同社代表取締役社長に就任。2010年9月デジタルコンサルティングパートナーズを主宰。2011年7月(株)デジタルインテリジェンス代表取締役に就任。

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