アジア生活者から見た日本・米国・中国のイメージとその変化 ~アジア定点調査レポート~

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リサーチャーコラム

2025/8/6(水)

グローバル・マーケティングを展開する上で、各国の生活者が持つカントリー・イメージとその変化は重要なトピックです。
近年は東アジア・東南アジア諸国において、中国企業や韓国企業の存在感が高まっています。また、今年に入ってからはいわゆる「トランプ関税」交渉に伴う影響などにより、各国の米国に対する評価の変化も気になるところでしょう。そうした中で、もちろん日本に対するイメージの現在地も確認する必要があります。
今回は、マクロミルが日本を含むアジア6ヶ国で毎月定点調査している「Macromill Monthly Index Asia」調査より、今年2月から、直近6月までの~ご紹介いたします。このおよそ半年間、急速に揺れた世界の様子の一端を、アジア消費者の目から描きます。

「Macromill Monthly Index Asia」では、以下の4つの視点から、カントリー・イメージを測定しています。
1.最近、とても成長していると思う国・地域(=現在成長イメージ)
2.今後20~30年後に、大きく成長すると思う国・地域(=将来成長イメージ)
3.今後、勢いが停滞・低下すると思う国・地域(=将来停滞イメージ)
4.自分が好き、親しみを感じる国・地域(=アフィニティ(好感・愛着)イメージ))
(いずれも、世界の主要国・地域を20選択肢(「その他の地域」「あてはまるものはない」を除く)で提示し、該当するものを選んでもらう複数選択式質問で聴取)

1. 各国に対する現在のイメージと、この半年間の変化

今年1月に米国では第二次トランプ政権が発足し、いわゆる「トランプ関税」交渉など各国に対する貿易・外交政策で活発な動きを見せている米国に対して、世界各国からの関心・注目は高まっていると言えるでしょう。中国は米国との関税には強い対抗姿勢を示した一方、今後の経済成長の見通しには苦戦を示す見方も出ています。
そのような状況の中で、各国に対するアジアの生活者のイメージには変化があったのでしょうか。ここでは、日本、米国、中国に対する2~6月の4つのイメージの時系列結果を確認します。

1-1. 日本に対するイメージとその変化
  • ASEAN諸国では依然高い成長イメージも残るが、東アジアでは停滞イメージ
  • この数ヶ月は、各国からのイメージに大きな変動は見られない

まず、日本に対する4つのイメージの調査結果から見ていきましょう。図表1では、調査対象国
(日本、中国、韓国、タイ、インドネシア、ベトナム)ごとに、「日本」に対する4つのイメージへの2月~6月のスコアの推移を示しました。

【図表1】「日本」に対する各国生活者のイメージ変化(2025年2~6月)

<6月時点の状況>

「(1)現在成長」イメージを見ると、ASEAN諸国では日本に対する成長イメージは現在も高い結果です。
この調査では、世界の主要な国・地域を20選択肢にして提示していますが、タイやインドネシアでは「日本」は順位で見ると20選択肢中2位、ベトナムでも3位でした。一方、中国では日本の「(1)現在成長」イメージは順位で言うと8位、韓国では11位、また日本の回答者の「日本」に対する回答も9位と、東アジア諸国ではあまり高くありません。
反対に、日本の「(3)将来停滞」イメージの結果は、中国・韓国・ベトナムおよび日本で「日本」が1位、タイとインドネシアでも4位です。ASEAN諸国では日本の印象全般が強いこともあり、成長イメージと停滞イメージの両方が並立している状況と言えるかもしれません。

<2月からの変化>

タイで「(4)アフィニティ」や「(1)現在成長」のイメージが上昇している反面、「(2)将来成長」のスコア低下傾向が見られますが、他の国では月による若干の変動を除き、一貫した大きな動きまでは見られない状況と言えるでしょう。

1-2. 米国に対するイメージとその変化
  • 特に2~4月頃に成長イメージが低下、停滞イメージが上昇

次に、米国に対する4つのイメージの結果をご紹介します(図表2)。

【図表2】「米国」に対する各国生活者のイメージ変化(2025年2~6月)

<6月時点の状況>

米国の「(1)現在成長」イメージは、各国内での回答結果の順位で見ると、韓国で20選択肢中3位、タイでも4位と一定の高さですが、他の国では6~9位と中位程度の結果となりました。
また、「(2)将来成長」イメージの米国の順位はいずれの国でも「(1)現在成長」の順位より低く、反対に「(3)将来停滞」イメージの米国の順位は、ベトナムを除く5ヶ国で「(1)現在成長」や「(2)将来成長」より高い結果でした。すなわち、全体に米国については現状に対して将来的な勢いは低下するという見方が強めです。

<2月からの変化>

特に東アジア諸国においてこの半年弱の間に米国の「(3)将来停滞」イメージが高まりつつあることが読み取れます。日本では、2月に比べて3月以降に米国の「(3)将来停滞」イメージが上昇しました。中国では2~3月に比べて4月以降はスコアが高くなり、韓国では月ごとに徐々にスコアが上昇し続けています。
その反面、「(2)将来成長」あるいは「(1)現在成長」などのイメージは韓国、中国、タイなどにおいて特に低下傾向が続いています。また、「(4)アフィニティ」についても、2月頃よりも6月時点のほうが下がっている国も見受けられます。

このように、今年春頃から関税交渉をはじめとして各国へ急速に方針を伝えたり、また短期間にそれを変更したりといった米国の方法に対して、それが米国自身にマイナス影響をもたらすのではないかと考えるアジアの消費者が一定数いることがわかります。
一方で、4月頃までに比べ、5月以降は全般に変化が小さくなっている様子も見受けられ、直近ではある程度「様子見」の感覚も広がっているのかもしれません。

米国については、傾向の変化が比較的明確なので、図表2で見たスコア(%)を、「順位」で示した表も掲載しておきます(図表3)。20選択肢の中での米国のスコアが、上から何位に相当するのかを示したものです。
表の中の「※」は、2月時点と6月時点での順位の差(変動)を示しています。「(1)現在成長」や「(2)将来成長」では、順位差がマイナスになる国が多く、各国で相対的にも米国の成長イメージがやや低下したことがわかります。逆に「(3)将来停滞」イメージは順位差がプラスになっている国が多いため、米国の停滞イメージが上昇傾向の国が多いことがわかります。

【図表3】「米国」に対する各国生活者のイメージ順位の変化(2025年2~6月)(「※」は2月時点と6月時点での順位差を示す。2位以上変動があった場合は黄色でハッチング)
1-3. 中国に対するイメージとその変化
  • 現在および将来共に成長イメージが高い
  • 日本・韓国では停滞イメージがやや低下、東南アジアでは現在成長イメージがやや上昇

最後に、中国に対する4つのイメージの結果をご紹介します(図表4)。

【図表4】「中国」に対する各国生活者のイメージ変化(2025年2~6月)

<6月時点の状況>

中国に対する「(1)現在成長」イメージは、日本以外では中国自身の回答者も含め20選択肢中1位という結果となりました(ちなみに日本では「中国」は4位で、1位は「インド」でした)。「(2)将来成長」についても、日本以外の各国では「中国」が1~2位と、現在も将来的にも高い成長イメージとなっています。

<2月からの変化>

中国に対しては、日本と韓国ではそれほど大きな変化は見られませんが、日本では「(3)将来停滞」イメージがやや低下しています。韓国でも、中国の「(3)将来停滞」イメージが6月調査で最も低くなり、反対に「(1)現在成長」イメージが4月頃を底としてやや上昇に転じていることもあり、停滞イメージがやや低くなっています。
タイ、インドネシア、ベトナムでは中国の「(3)将来停滞」イメージは全体に低いまま推移しています。タイでは、「(2)将来成長」イメージが低下していますが、「(1)現在成長」イメージは上下変動があるものの、平均的には異高い水準を維持しています。インドネシアでも2~3月頃に比べると、成長イメージが上昇しました。また、タイ、インドネシアとも、中国への「(4)アフィニティ」イメージも上昇傾向です。

2. グローバル・マーケティングとアジア生活者の理解の必要性

今回ご紹介した結果は全体傾向のみですが、アジア生活者のカントリー・イメージに一部変化が見られたことがわかりました。
グローバル・マーケティングには、関税のような直接的な影響はもちろんのこと、どこの国の企業やブランドかといった情報やイメージ(カントリー・オブ・オリジンと呼ばれます)も、ブランド評価や商品選択に影響を与えることがあります。生活者の根底の部分でどのような認識があるのか、またそれらがどのように変化しているかを理解することは、よりよいグローバル・マーケティングを展開する上で、基盤となってくる情報と言えるでしょう。

今後も様々な要因がグローバル・マーケティングに影響を与えることが考えられ、またそれに伴う生活者の反応やイメージも、それまでの文脈や各国の状況に応じて異なってくることがあり得ます。マクロミルでは、アジア各地の生活者の最新の姿を継続的に追っていきます。

■「Macromill Monthly Index Asia」調査概要
・概要:月次で調査実施。2025年2月よりリニューアルして、現在の形態で実施。
※毎週実施している「Macromill Weekly Index Asia」の姉妹調査にあたります。
・調査国・対象者:日本(全国、20~69歳)、韓国(全国、20~59歳)、中国(指定10都市、20~69歳)、ベトナム(グレーター・ハノイおよびグレーター・ホーチミン地域、20~49歳)、タイ(グレーター・バンコク地域、20~49歳)、インドネシア(グレーター・ジャカルタ地域、20~49歳)
・回答者数:各国約1,000人/月 (一部の国ではウェイト集計を実施)
・調査方法:インターネット調査
・調査時期:毎月10日から調査開始

著者の紹介

熊谷信司

株式会社マクロミル マクロミル・グローバルリサーチインスティテュート シニアフェロー

熊谷 信司

東京大学大学院教育学研究科修了。総合調査会社勤務を経て、マクロミル入社後はリサーチャーとして国内外の数々の調査プロジェクトを担当。2019年よりグローバルリサーチ本部に異動し、現在は海外調査のプランニングや海外調査の知見創出・情報発信、また産学連携による研究・教育取り組みなど多岐に活動。専門社会調査士。

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