「GLOBAL WORK」や「niko and ...」を運営するアンドエスティHDが挑む意識データ活用によるパーソナライズの進化【アフターレポート】

2026/5/28(木)

株式会社アンドエスティHD様

アンドエスティHDは、アパレル・雑貨・飲食のブランド展開をはじめ、ECモールやメディアの運営、グループの物流、特例子会社の管理まで、多角的な事業を包括的に担うマルチカンパニーグループです。

2026年2月17日、赤坂インターシティコンファレンスにて、合同会社EQUITAS主催のブランド担当者限定セミナー「EQUITAS Brand Seminar」が開催されました。本セミナーのメインテーマは「顧客体験のネクストステージ ― 意識データ+1st party dataの活用」です。

デジタル化が進み、あらゆる顧客行動が可視化される一方で、多くの企業が「データはあっても顧客の『心』が見えない」という壁に直面しています。この課題に対し、本セミナーでは顧客データ活用を一歩先に進め、より良い体験を作るための深い議論が展開されました。

本記事では、当日行われたセッションの中から、「ファッションプラットフォーム『and ST』の意識データによるパーソナライズ進化への挑戦!」の内容を詳しくレポートします。登壇者は、株式会社アンドエスティHDの金山祐介氏と、モデレーターを務めた株式会社マクロミルの原田俊です。

INDEX

1. 「and ST」が目指すアパレル小売からプラットフォーマーへの転換

株式会社アンドエスティHDは、「GLOBAL WORK」や「niko and ...」など55を超えるファッションブランドを国内外で展開するアパレルや飲食事業、モール事業など多角的な事業を担い、国内外に約1,600店舗を展開する日本屈指のライフスタイル企業です。同社が運営する公式ECモール「and ST」は、会員数約1,970万人、アクティブ会員約750万人を誇る巨大なファッションプラットフォームへと成長しています。

同社は2030年に向けた中期経営計画において、単なるアパレル小売から「プラットフォーマー」への事業構造改革を掲げています。ECモールのGMV(流通総額)を1,000億円に引き上げ 、自社ブランドだけでなく他社ブランドや金融・メディアサービスなども包括する、顧客の「好き」が繋がるコミュニティの実現を目指しています。

この壮大なビジョンを実現するための鍵となるのが、「パーソナライゼーションの高度化」です 。膨大な会員を一人ひとり向き合う存在として捉え、最適な商品を最適なタイミングで提案する。その精度を高めることが顧客のLTVの向上、しいては同社の事業成長戦略に直結します。

2. 行動データの限界と「意識データ」というミッシングピース

しかし、現在のデータ活用には構造的な課題が存在します 。アンドエスティHDに限らず、多くの企業が保有する「ファーストパーティデータ」の主役は、Web上の閲覧や購入履歴といった「行動データ」です 。

マクロミルの原田は、行動データだけに基づいた分析には以下の限界があると指摘します。

株式会社マクロミル 事業統括本部 CRM/CX事業ユニット ユニット長の原田 俊

  • 自社タッチポイント以外の行動が見えない:消費者にとって自社サイト上での行動は生活の一部に過ぎません。その一部のタッチポイントだけで消費者を理解してしまうと誤った消費者理解につながってしまいます。

  • ロイヤル顧客しか見えない:自社サイト内で活発に行動する顧客のデータは豊富ですが、ライト顧客や休眠顧客、さらには未購入の潜在顧客については、行動ログ自体が少なく、解像度が上がりません。

  • 「なぜ」がわからない:「ある商品を購入した」という事実はわかっても、それが「価格の安さ」で選ばれたのか、「最新のトレンド」を追った結果なのか、その動機(心理)を把握することは困難です。

アンドエスティHDにおいても「会員データが不足しており、特に趣味嗜好やトレンド感度など行動データでは把握しきれない生活者の内面的な情報が必要」と金山氏は話します。そこで注目したのが、マクロミルが提供する「意識データ」です。これは生活者の価値観や興味関心、ライフスタイルなど 、アンケート等のリサーチ手法を通じて得られる「内面」のデータです。この意識データを自社の行動データと掛け合わせることで、データの空白を埋め、「andST」上で行うパーソナライズを進化させる挑戦が始まりました。

3. プロジェクトの核心:5つのステップによる実証実験(PoC)

アンドエスティHDとマクロミルで取り組んだプロジェクトでは、Snowflake上に構築したセキュアなデータ連携基盤「データクリーンルーム」を活用し 、以下の5ステップで実証実験(PoC)を進めました。

  1. IDマッチング
    アンドエスティ会員(アクティブ約740万人)と、マクロミルが保有する130万人の意識データを、ハッシュ化したメールアドレスをキーにして突合しました。
  2. 分布確認
    IDマッチングの結果、約12万人が突合でき、行動データと意識データを紐付ける土台を構築しました。これにより、「どのような行動ログを持つ人が、どのような価値観を持っているか」という相関関係を学習可能な状態にしました。
  3. 拡大推計(AI活用)
    AI(機械学習)を用いて、IDマッチングしていない残りの会員を含むアクティブ会員740万人全員に対し、個々の「ファッションへの嗜好性や消費価値観」を推計・付与しました。平均精度63.5%という水準で、全会員のデータ付与を実現しました。
  4. 会員データのリッチ化
    拡大推計により付与した「アウトドア」「美容」といった顧客の意識データを、レコメンドエンジンが解釈できる「スポーティ」「フェミニン」といった商品属性(タグ)にマッピングするための翻訳ルール(Mapping Logic)を作成しました。これにより、会員一人ひとりに商品属性に基づいた”タグ付け”が完了しました。
  5. レコメンド実装
    キーワード検索結果の表示において、50:50のABテストを実施しました。従来の行動データのみのグループに対し、個人の好みを反映した意識データ活用グループの検索順位を最適化し、その有効性を検証しました。

4. ABテストの結果と、パーソナライズの「本質」への気づき

ABテストの結果、IDが直接マッチした確かな意識データを持つ会員グループでは、CVR(コンバージョン率)が有意に向上するという、明確なポジティブ反応が見られました。これは「個人の価値観に基づいた提案が、購買行動を促す」という仮説を裏付ける大きな成果です。

一方で、AIによる拡大推計を含めた全会員ベースでは、CVRがわずかに低下する結果となりました。この要因について、金山氏は冷静に分析しています。

株式会社アンドエスティHD データインテリジェンス部 シニアマネジャーの金山 祐介氏

  • AI精度の不足:推計モデルのさらなる洗練が必要であること。

  • 意識データ→商品タグへのマッピングルールが不十分:意識データを、「スポーティ」「フェミニン」といった商品タグの属性に機械的に紐づけることが難しく、翻訳ルールを作成したが、そのロジックが適切はなかった可能性がある。

  • 商品タグ設定の見直し余地:商品側についている商品タグ自体に明確な設定ルールが設けられていない可能性があったこと。

  • ノイズの回避:PoC期間中に大型のポイント還元イベントが重なり、顧客の行動が純粋な「好み」ではなく「お得感」に強く引きずられたため、心理に基づくレコメンドが機能しにくい環境であったこと。

5. 展望:データは「顧客と繋がる」ための手段である

PoCを通じて得られたのは、数字上の成果だけではありません。感度分析の結果、意識データはイベント訪問会員の「目新しさや好奇心」といった特性を正確に把握できていることも確認されました。

※本スライド内の数値データはセミナー限定の公開情報を含むため、本サイトでの掲載にあたってはマスキング処理をさせていただいております。

金山氏は今回のPoCを総括して「意識データをレコメンデーションに使うというベースアイディアの有効性は確信できた。アンドエスティが目指す『好きとつながるコミュニティ』のためにパーソナライズ進化を加速させるためのファーストステップになった。」と語ります。

※本スライド内の数値データはセミナー限定の公開情報を含むため、本サイトでの掲載にあたってはマスキング処理をさせていただいております。

アンドエスティHDが目指すのは、単に効率よくモノを売ることではありません。パーソナライズを進化させることで、顧客一人ひとりの「好き」に寄り添い、生活を豊かにするプラットフォームになることです。

マクロミルは今後も、ファーストパーティデータに「意識」の彩りを加えることで、企業と顧客がより深くつながる「パーソナライズの進化」を共に歩んでまいります。

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