
今回は、「海外リサーチ情報」としてマクロミルが実施した【東南アジアのオンライン・オフライン比較調査】結果紹介の第3回目(シリーズ最終回)です。
前回(第2回目)は、「単一回答」への質問結果をご紹介しました。今回は、「複数選択式質問への回答」(以下、「複数回答」)の結果のご紹介や、前回からの結果も踏まえた東南アジア地域でのオンライン定量調査票の設計について検討します。
なお、調査の結果は実施方法や対象者条件、質問内容などによって大きく異なる場合もありますので、今回の結果は事例の1つとしてご覧いただければ幸いです。
1.興味・関心のある物事
まずご紹介するのは、興味・関心のある物事について質問です。反応を比較するため、1問の中にやや多めの選択肢(「あてはまるものはない」を除き、タイでは26選択肢、インドネシア・ベトナムでは25選択肢)を一度に提示して回答いただきました。
【図表1】は、各国での結果をオンライン調査・オフライン調査で比較したものです。
【図表1】 興味・関心のある物事(割合(%)の比較)

<有意差凡例(χ2検定)>
*** 0.1%水準で有意、** 1%水準で有意、* 5%水準で有意
タイではほとんどの選択肢でオンライン調査回答者の回答スコアが高く、16個でオフライン調査回答者より有意に高い結果となりました。差が大きい項目は、「オンラインショッピング」「アニメ・マンガ」「海外旅行」「料理」「映画」「ゲーム」「投資・資産運用」などで、オンラインに関連するサービスやコンテンツ系に関する項目が多く含まれるのが特徴と言えそうです。
インドネシアでもほぼ全ての選択肢でオンライン調査回答者の割合が高く、19個で有意差がありました。タイ以上にスコア差が大きいものも多く見られます。
一方、ベトナムでは選択肢によって傾向が分かれました。オンライン調査回答者のほうが有意に高いものには、「自動車、ドライブ」などのほか、タイと同様に「オンラインショッピング」「アニメ・マンガ」「ゲーム」などオンラインコンテンツに関連が深いものや、「スキル・資格取得」「投資・資産運用」「海外旅行」など比較的富裕層が興味を持ちそうな項目が多いようです。
このように割合(%)の数字の違いだけを見ると、同じ質問に対する回答結果でありながら、別の調査の結果のように感じた方もいらっしゃるかもしれません。しかし一方で、2つの調査方法間で多少のスコアの違いはあっても、基本的には各国内で興味関心の高い項目はオンライン・オフラインどちらの調査でも高く、興味関心の低い項目はどちらの調査でも低いスコアになっていることがほとんどであることも、この結果から読み取ることができます。
そこで、各調査結果内で、全選択肢の中でそれぞれの選択肢のスコアが何位であったかという「順位」に着目したのが【図表2】です。
【図表2】 興味・関心のある物事(選択肢の順位比較)

【図表2】の下部に掲載した「順位相関係数」は、それぞれの国においてオンライン調査とオフライン調査の選択肢の「順位」がどのくらい相関しているかを算出した数字です。数字が1に近づくほど関連が高いことを示します。
この中ではベトナムで最も順位相関係数が高く、実際に各選択肢でのオンライン・オフライン調査の順位の「差」を見てもほとんどが±4位以内と、どちらの調査でも傾向は近くなっています。
インドネシアやタイでは、先ほど【図表1】においてオンライン・オフライン調査間でのスコア差が非常に大きいと指摘した選択肢(「アニメ・マンガ」「投資・資産運用」など)は、【図表2】の「順位」で見てもややズレが大きくなっています。しかし、全体としては傾向の近さが見られます。
2.世帯保有機器
次に、世帯内で保有している各種デバイスについての複数回答結果を見てみましょう。先ほどと同じように、まず各選択肢の集計結果を国別×調査方法別に示したのが【図表3】です。
【図表3】 世帯保有機器(割合(%)の比較)

※この質問は、オンライン調査回答者では回答者を2グループに分けたうちの1グループのみに尋ねているため、回答者数が各国のオンライン調査回答者全体の半数になっている。
<有意差凡例(χ2検定)>
*** 0.1%水準で有意、** 1%水準で有意、* 5%水準で有意
今度は、タイ・インドネシアに加え、ベトナムでも全般的にオンライン調査回答者のほうがオフライン回答者より高い割合の項目が多い結果となりました。
この質問ではIT・AV機器やゲーム機などの保有を中心に尋ねています。そのため、本記事の第1回以来ご紹介していますように、オンライン調査回答者のほうがITなどへの親和性が高いことや、インドネシアやベトナムではオンライン回答者のほうが高収入層の割合も高いことなどが、スコア差にも関係していると言えそうです。特に、3ヵ国とも「デスクトップパソコン」「ノートパソコン」「プリンター」「家庭用ゲーム機」などで、オンライン調査回答者のスコアがオフライン調査回答者を大きく上回っていました。
また、これも先ほどと同じように、「順位」を基準に検討してみました【図表4】。
【図表4】 世帯保有機器(順位の比較)

これを見ると、ベトナムやタイでは順位相関係数が特に高く、オンライン・オフライン調査間での順位差も、±5位以上離れているものは少なくなっています。インドネシアでも、一部に順位が大きく異なるものもありますが、多くは±5位以内の差でした。
3.購入経験ブランド(食品・飲料)
では、複数選択式の質問を用いると、いつもオンライン調査の回答スコアが高いのかというと、必ずしもそうはなりません。
【図表5】は、食品・飲料や菓子などのブランドについて、購入経験のあるブランドを尋ねたものです。国ごとに提示ブランドが異なるので、タイであれば「ブランドT1~T30」のように、ここでは簡易的な通し番号で示しました。
【図表5】 食品・飲料・菓子等の購入経験ブランド(割合(%)の比較)

※この質問は、オンライン調査回答者では回答者を2グループに分けたうちの1グループのみに尋ねているため、回答者数が各国のオンライン調査回答者全体の半数になっている。
<有意差凡例(χ2検定)>
*** 0.1%水準で有意、** 1%水準で有意、* 5%水準で有意
【図表5】を見ると、タイでは全ての選択肢でオフライン調査回答者のスコアが高く、ほとんどの選択肢で有意な差です。しかも、その差は20ポイント以上になるブランドも多くなっています。
インドネシアやベトナムでも、有意差がある選択肢の多くはオフライン調査回答者のスコアがオンライン調査回答者のスコアより高いものが大半で、これらも差分が10ポイントを超えるものも多く見られます。
先ほど見た世帯でのデバイス保有の質問は、メーカー・ブランドなどを問わない「商材カテゴリー」を尋ねたものです。しかも、そうした機器は一部を除いて世帯に1~2台程度であることが多いでしょう。また、耐久財ですから、買い換え頻度も低いものです。それに対し、この質問は食品・飲料等の個別ブランドを尋ねたものであるため、記憶の掘り起こしも多く必要となります。その際に、回答環境(調査員が確認しながら回答するか、スマートフォンの画面などでスクロールしながら進めるか)の違いなどにより、選択基準の「しきい値」の異なりが大きくなる可能性が考えられます。
【図表6】 食品・飲料・菓子等の購入経験ブランド(順位の比較)

しかし、これも【図表6】で「順位」ベースの回答を見ると、オンライン・オフライン調査間での順位相関は驚くほど高いことがわかります。すなわち、各国において「どのブランドがよく買われているか」「どのブランドは購入経験割合が低いか」については、オンライン・オフラインどちらの調査でも実は極めて一致度が高く、ブランド間の構造把握はしやすいことがわかります。
4.オンライン調査票の設計と解釈ポイント
それでは、前回から検討してきたオンライン・オフライン調査の結果比較をもとに、オンライン調査における調査票設計や結果の解釈に当たってのポイントを簡単に整理したいと思います。
- 回答者の特性を把握して解釈
まず、調査方法によって、そもそもの回答者の属性も一部異なりが生じることが確認されました。理想は調査方法にかかわらず、市場の消費者全体あるいはターゲット層となる消費者をきれいに縮図化したいところですが、現実には非常に困難な話となります。
そこで、回答者の生活水準などを考慮して「世帯収入が○○以上の層で見れば~」といったように解釈をすることで、単に「実態とズレがあるのではないか」で終わらずに、調査結果を少しでも有効に活用することが可能になります。
そのため、調査票設計時には回答者の生活特性が把握できる質問を入れておくこと、また、データ分析時には公的統計などの二次データを参考に調査回答者の属性(年齢構成や世帯収入など)を比較することで、その特徴を把握しやすくなります。
- 比較の測定対象を設ける
オンライン・オフラインという調査方法を考える以前に、実は東南アジア諸国での調査では、様々な商品・サービス等に対する購入意向や満足度などが、総じて高いスコアになることがしばしばあります。
こうした国民性などによる回答の特性は「反応スタイル」と呼ばれます。今回見てきたタイ・インドネシア・ベトナムなどの国では、総じてスケールの選択に際して「とてもそう思う」「ややそう思う」など肯定寄りの回答をしやすい「黙従反応スタイル」が強く、また「とてもそう思う」「全くそう思わない」など、両極端の選択肢を選びやすい「極端反応スタイル」(特にここでは「とてもそう思う」など肯定の極端選択肢)も強めです(注1)。
また、複数回答についても、選択肢を選ぶ基準に国・地域による特性が見られます。これも広い意味では反応スタイルの一種とも言えるでしょう。
【図表7】に、マクロミルで実施した別の調査から、このような例の一端を示しました。
【図表7】タイ(バンコク)・インドネシア(ジャカルタ)・ベトナム(ホーチミン)の反応スタイル

<データ出所:マクロミル「The LIFE 20」調査(2023年実施)>
①耐久財購入時の重視点についての19個の選択肢(「その他」「あてはまるものはない」を除く)に対する平均選択個数
②「環境に配慮した商品であれば、少しくらい価格が高くてもかまわない」(5件尺度)に対する回答分布
※いずれの都市(都市圏)もN=1,000(ウェイト集計あり)、調査方法はインターネット調査。
こうしたことを踏まえると、メイン商品の結果1つだけで消費者の感覚を探るのではなく、競合商品などについても測定して「相対比較」を行うと、より根拠を持って意思決定につなげやすくなります。特にオンライン調査回答者は、これまでご紹介したように、オンライン関係のサービス利用や情報収集、ITデバイス保有などが高くなりやすい傾向があるため、評価の優劣や意向の強弱をはっきりさせるために、複数回答と単一回答を組み合わせたり、分析の際には相対的な順位による位置づけを確認したりする工夫を用いるのも一手です。
ただし、あまり比較対象を多くしすぎても回答負荷が増したり、分析の手間が増したりすることがありますので、バランスを考えつつ適切な比較を行うことが望ましいと言えるでしょう。
- 高ブレを減らすために
上の話とも関連して、調査結果が想定していた水準以上に高い認知度や頻度ではないか、という「高ブレ」を感じるケースもあります。難しい問題ですが、1問の中に多くの条件を詰め込んでいたり、一読で判断しづらい条件や曖昧な条件が盛り込まれていたりすると回答者がうまく理解できず、結果に歪みが生じる可能性もあります(例:「あなたは生成AIを、単なる検索や定型業務処理ではなく、仕事の新たなアイディアを考える目的として、週何日くらい使っていますか?」)
特にオンライン調査では、近年のスマートフォンは大型化が進んでいるトレンドもありますが、一度に画面から目に入る情報量には限りがあります。また、調査員からの説明や確認もできないため、一読で理解しづらい質問設計は、結果のブレやノイズを増やす危険があります。
選択肢についても、あまりに多い選択肢はよくないということは常に指摘されることですが、一方で様々な回答者の立場や、予想される意見の多様性に配慮せず網羅性が低くなると、回答者としては無理に少しでも近い選択肢を多く選んでしまうこともあり得ます。悩ましい問題ですが、こうしたバランスを考慮した調査票設計にすることが望まれます。
5.最後に
これまで3回にわたり、タイ・インドネシア・ベトナムにおけるオンライン調査とオフライン調査の比較結果をご紹介しました。日系企業のグローバル・マーケティング活動においてこれらの地域の重要性もさらに高まる中、グローバル調査データを有効に活用して、よりよい意思決定を行うための一助となれば幸いです。
<「東南アジアのオンライン・オフライン比較調査」調査概要>
●調査エリア・対象者、時期
(1) タイ:グレーター・バンコク地域に居住する一般消費者男女20~49歳、2024年1~3月実施
(2) インドネシア:グレーター・ジャカルタ地域(ジャボデタベック)に居住する一般消費者男女20~49歳、2024年8~9月実施
(3) ベトナム:グレーター・ハノイおよびグレーター・ホーチミン地域に居住する一般消費者男女20~49歳、2024年8~9月実施
●回答者数
(1) タイ:オンライン調査=800人、オフライン調査=400人
(2) インドネシア:オンライン調査=800人、オフライン調査=400人
(3) ベトナム:オンライン調査=1,600人、オフライン調査=800人(いずれもハノイ地域とホーチミン地域で半数ずつ)
<注>
注1:逆に日本では「どちらとも言えない」などの中間的な選択肢や、「ややそう思う」などを選ぶ傾向が多く、「とてもそう思う」などの強い肯定割合は国際比較をすると非常に低い割合になることがしばしば見られる。
*本調査結果は、「ミルコミnote」(https://note.com/macromill/m/me0d171521691)記事で、主として国別に結果をまとめ、5回に分けてご紹介しております。このコラムでは、全体結果をまとめてトピック別に掲載していきます。
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著者の紹介
株式会社マクロミル マクロミル・グローバルリサーチ・インスティテュート シニアフェロー
熊谷 信司
東京大学大学院教育学研究科修了。総合調査会社勤務を経て、マクロミル入社後はリサーチャーとして国内外の数々の調査プロジェクトを担当し、現在は海外調査の知見創出・情報発信、海外消費者定点調査、産学連携による研究・教育の取り組み、業界団体委員など多岐に活動。専門社会調査士。主著『グローバル・マーケティング・リサーチの考え方 -海外展開する企業のための調査の基本』(白桃書房、2025年)。