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マーケティングを成功に導くリサーチ
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競合市場を把握する

朝野熙彦[著]
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連載:マーケティングを成功に導くリサーチ
マーケターがマーケティング・リサーチを正しく活用すれば、マーケティングを成功に導くための貴重な情報が得られます。調査は一見簡単そうに見えますが、そこにはいろいろな落とし穴が潜んでいます。調査のオリエンテーションに始まり調査結果の解釈と意思決定にいたるまで、マーケターは各段階に隠れた落とし穴にはまらないように注意しなければなりません。今回の連載ではマーケティング活動を成功に導くために、マーケティングの活動領域別に調査を活用するヒントを提案していきたいと思います。

第4回 競合市場を把握する

今回は市場における競合関係を把握するためのリサーチについて述べたいと思います。市場参入にあたって事前に獲得シェアを予測しよう、という問題です。参入側だけでなく参入される側にとっても、市場をどうとらえるかが重要であることを述べます。

1. 出店計画と競合モデル

■引力モデル

地理的に近いことが競合を引き起こすとみられる典型的な業界が小売業です。競合モデルの系譜をたどると次のようになります。

ハフの引力モデル ⇒ 通産モデル ⇒ ハフの拡張としてのMCIモデル

ハフはアメリカのマーケティング学者で、ショッピンングセンターの立地を決めるために「引力モデル」を提唱しました。彼は次の3つの仮定から集客数を予測しました。

【仮定1】大きいことはいいことだ…店舗面積が大きいショッピングセンターほど消費者を吸引する。これを魅力要因Sとします。

【仮定2】店が遠いと面倒だ…買い物に行くのにガソリン代や時間がかかるのは避けたい。そこで居住地からの距離Tを抵抗要因とします。

【仮定3】ショッピングセンターの効用はSに比例し、Tのべき乗に反比例する。居住地区ごとに新規店・競合店の効用を求め、効用の構成比を選択確率と仮定します。

あとは地区別の居住人口に選択確率を掛けて合計すれば、新規店を含めて各店舗の集客数が予測できます。

図1 同じ商圏では候補地Bの方が既存店と競合しない

■出店調査のトリガーになった大店法

日本では大店法(大規模小売店舗における小売業の事業活動の調整に関する法律の略)の施行過程でハフモデルを政策的に導入しました。もっとも日本で利用したのはハフの原案ではなく、べき乗を2乗に固定したいわゆる通産モデルでした。大店法は日本の商業にもリサーチにも大きなインパクトを与えた法律でしたのでその経緯を表1に整理します。

表1 大店法の歴史※著者の見解

時期 特徴 問題
第1期 1974年~1979年 施行後の混乱期 法律は出来たが出店の影響は評価できなかった
第2期 1979年6月20日~1994年 審査基準を公表 通産モデルによる予測を義務づけた
第3期 1994年~2000年 大店法改正による規制緩和 政策効果が不明なままフェード・アウト

通産モデルは大店法の廃止とともに消えてしまいましたが、日本のサービス事業者は、ハフモデルが他業態にも使えることに気づいたのです。次のような業態でハフモデルが応用展開されました。

 ファミリーレストランの立地調査、
 コーヒーショップ、コンビニ、牛丼店の集客予測、…

ハフモデルは、その圧倒的な必要性から産業界で普及したという珍しいマーケティング・モデルです。

他方、通称リゾート法を契機として、日本各地でテーマパークと観光開発が乱立し、それらの集客予測が必要になりました。観光開発ではS、Tの2要因だけでは足りないのは当然です。おもてなしのレベルが高い、新しい経験ができる、トイレが清潔、駐車場が広い、営業時間が長い…集客を左右する要因はたくさんあります。ハフモデルを拡大したのが中西らのMCIモデルでした。

MCIモデル(積乗型競合相互作用モデル/Multiplicative Competitive Interaction Model)

  • 2要因を多要因に拡張
  • 全ての要因にベキ乗パラメータをつける
  • そのパラメータの値はデータから推定する※1
■大店法の功罪

はじめにネガティブな面からいえば、大店法は日本の流通の近代化を遅らせ大型店の郊外出店を招き、今日の中心市街地の空洞化を引き起こした、という批判があります※2
一方、プラスの面は、表1の第2期に、日本の産業界にデータとロジックで意思決定する風土を芽生えさせたことにあります。そのロジックがハフの引力モデルでした。同じモデルに同じデータを入力すれば同じ予測値が求められます。 MCIモデルの場合はイメージ変数も使えます。たとえば「家族一緒に楽しめる」かどうかで競合店と新規店を比較した居住地別データは、新たに調査しなければ得られないでしょう※3。今日ではテーマパークやショッピングモールを事前評価せずに開設することは考えられません。大店法はデータドリブンなマーケティングの時代を拓いた、といえると思います。

2. データとロジック

ハフモデルが妥当かどうかは場合によりけりです。次のような批判も可能でしょう。

【仮定1´】セレクトショップや専門店は規模の大きさで勝負しているわけではない。大型店なら魅力的だというハフの仮定はあやしいです。

【仮定2´】地方の温泉地と都会の日帰り温泉は遠く離れているからこそ競合が生じます。他方、カタログ通販やネット通販では距離概念は無意味です。

【仮定3´】市場はゼロサムでパイを奪い合うしかない、という仮定はどうでしょうか。表1の第1期に開店した某スーパーの場合は、地元商店会が出店に猛反対して社会運動が起きました。その20年後に同スーパーが撤退すると来街者が減り、商店街は衰退しました。なんと地元から撤退反対運動が起きたくらいです。

市場は競合する以外ないのか?共存共栄の道はないのか?という疑問はハフモデルとMCIモデルの根源にかかわる問題です。

今回のまとめ

★ データもロジックもどちらも必要である
★ 調査結果がビジネス活動の成否を決めることがある
★ 競合を選ぶか協働を選ぶかという戦略的発想が大事

※1  MCIモデルの推定法は、「Rによるマーケティング・シミュレーション」(同友館、 朝野熙彦(2008))などに解説があります。
※2  「小売競争の視点」(同文館、関根孝(2000))で大店法と街づくり3法について詳しく論じています。
※3  MCIモデルのデータは「正の実数」でなければなりません。MCIが掛け算モデルなので数値の比をとるからです。イメージを1~10点で評価させるのが一番簡単です。具体的な調査項目は業態次第なので、リサーチの専門家に相談するとよいでしょう。
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朝野熙彦
千葉大学卒業後、千葉大講師、筑波大特別研究員の兼任を経て専修大・都立大・首都大教授、多摩大および中央大大学院客員教授を歴任。学習院マネジメントスクール顧問。日本行動計量学会理事。専門はマーケティング・サイエンス。
〔主な著書〕
『最新マーケティング・サイエンスの基礎』、『マーケティング・リサーチ』、『入門共分散構造分析の実際』、『入門多変量解析の実際』以上講談社、『アンケート調査入門』東京図書、『ビジネスマンがはじめて学ぶベイズ統計学』朝倉書店など著書多数

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