デプスインタビューとは?1対1で深層心理を探る定性調査の手法と活用ポイント

デプスインタビュー(Depth Interview)とは、特定のテーマや製品・サービスについて、被験者(インタビュイー)から深い洞察を引き出すために行われる定性調査の手法です。インタビュアーが1対1で被験者と向き合い、十分な時間をかけて質問を重ねることで、回答者の行動原理や潜在的なニーズ、あるいは感情面のバックグラウンドまでを掘り下げられる点が特徴です。同じカテゴリーに属する調査には、フォーカスグループインタビューやユーザーインタビューなどがありますが、デプスインタビューはあくまで一対一にこだわり、深層心理やインサイトをしっかり抽出するところが強みといえます。
従来、調査の世界ではどちらかと言えば定量調査(アンケートなど)で数値や統計を捉える手法が主流でしたが、Cookie規制やプライバシー保護が進む現代においては、個々の対象者のリアルな心情を理解する重要性が高まっています。
また、大規模言語モデル(LLM)やAIエージェントなど、先端技術が台頭する一方で、「なぜこの人はこう思うのか」「背景にはどんな体験があるのか」といったユーザーモチベーションを深く理解する必要はむしろ増えてきています。デプスインタビューはデジタルトランスフォーメーション(DX)の文脈でも欠かせない調査手法の一つとして捉えられ、さまざまな分野で活用の幅が広がっているのです。
- デプスインタビューが求められる背景
- デプスインタビューの特徴
- デプスインタビューのデメリット
- デプスインタビューの活用場面
- デプスインタビュー実施プロセスと注意点
- デプスインタビューとグループインタビュー、エスノグラフィー調査との違い
- DX時代におけるデプスインタビューの役割
- デプスインタビューのデジタル化と今後の展望
- まとめ
デプスインタビューが求められる背景
消費者やユーザーを取り巻く環境が大きく変化し、短いサイクルでのABテストやEFO(Entry Form Optimization)、UI/UX改善がマーケティング施策の基本となりました。こうした状況下で定量データのみを追いかけていると、数字に表れにくい定性的なニーズや不満、潜在的欲求を見逃す可能性が高まります。特にCookie規制によってサードパーティデータが取得しづらくなる昨今では、オンライン行動ログやSNS広告のパフォーマンス指標だけでは捉えきれない深層部分を掘り下げる手段が重要視されています。
そこで、デプスインタビューの持つ「一対一で相手の本音を引き出す」能力が見直されるようになりました。いくらテクノロジーが進んでも、ユーザーの行動の根底には人間の感情や価値観が存在します。たとえば、ユーザーが商品の機能面は問題ないと感じていても、デザインに抱くイメージやライフスタイルとの相性など、定量調査では顕在化しにくい理由で購入をためらうケースは多々あります。こうした要因を把握するには、コミュニティでの双方向コミュニケーションやユーザーインタビューも有効ですが、デプスインタビューほど徹底的に個人の内面を掘り下げられる手法は少ないのです。
また、企業や組織がブランドロイヤリティの醸成を目指すうえでも、ユーザーの心理的壁や商品への期待値を深く理解することが欠かせません。UXやステップメールの設計をよりパーソナルかつ効果的に行うには、デプスインタビューで得たリアルな言葉や感情の動きをコンテンツ作りやUI改善に反映するのが非常に有意義です。
デプスインタビューの特徴
デプスインタビューは「1対1」という形式を基本とし、定型質問だけではなく自由回答を引き出すための柔軟なコミュニケーションを重視します。そのため、通常のアンケートなどでは見えない深層心理を表出させることが可能となります。以下に主な特徴を挙げます。
徹底したヒアリングが可能
通常のユーザーインタビューよりも長い時間(1時間〜2時間ほど)をかける場合が多く、相手が言いたいことを存分に語れるよう配慮するのが基本です。インタビュアーはあえて「沈黙」を活用したり、追加質問を投げかけながら相手の感情や考えを深く掘り下げるテクニックを使います。このプロセスを「モデレーション」と言います。
自由回答と仮説検証
デプスインタビューでは、事前に用意した質問リストを柔軟にアレンジし、被験者が思考を広げやすい環境を作ります。そのプロセスで企業側の仮説とユーザーの実態を照らし合わせ、コモディティ化の回避やロイヤリティ向上など、具体的な施策への示唆を得られます。
心理的安心感の醸成
被験者が心を開いて話すためには、インタビュアーとの信頼関係づくりが重要です。とくにフェムテックやヘルスケアなど、プライバシー度の高いテーマを扱う場合、「質問に答えても大丈夫」と相手が思える空気作りが不可欠となります。
こうした特徴があるからこそ、マーケティングリサーチの観点で、デジタル定量指標や行動ログだけでは見えにくい「ユーザーの本音」に迫る道筋を築けるわけです。
デプスインタビューのデメリット
実施に時間とコストがかかる
デプスインタビューは、1人あたり1〜1.5時間かかり、グループインタビューよりもコストと手間がかかります。具体的には、調査対象者への謝礼やインタビュアーの報酬などが費用がかさみます。オフラインで実施する場合は、会場費も発生するため、その点も考慮しておきましょう。
インタビュアーのスキル次第で結果が左右される
デプスインタビューで得られる情報の深さは、インタビュアーのスキルに左右されます。インタビュアーが参加者の話をうまく広げられないと、一問一答のような、表面的な情報しか得られません。インタビュアーは、信頼関係を築いて参加者が本音を話しやすい環境を作る必要があります。
対象者の意見が偏る可能性がある
デプスインタビューは1対1で行われるため、得られる意見が対象者個人の考えに偏る場合があります。グループインタビューのように他の意見と交わる機会がないため、多くの消費者のニーズを代表する意見が得られるとは限りません。
データの整理・分析に手間がかかる
デプスインタビューでは、得られる情報が多岐にわたるため、データの整理や分析には手間と時間がかかります。例えば15名にインタビューをする場合、最低でも15時間が必要で、分析やレポート作成も含め、余裕をもたせたスケジュール設定が求められます。
デプスインタビューの活用場面
デプスインタビューの活用場面として以下が挙げられます。
• 新製品・新サービスのコンセプト開発
まだ市場に出ていない段階で、仮説ベースのプロトタイプを提示し、ユーザーに深く意見を尋ねる。ABテストやEFOの前段階として、CVRを高めるUIや機能のヒントを得られる。
• ブランドロイヤリティに関する深層理解
ユーザーが特定のブランドを好きになる理由や離脱を考える心理的要因を、定量調査だけでは捕捉しきれない部分まで把握。ステップメールなどのフォロープランやSNSコミュニティ運営に活かせる。
• ターゲットセグメントの感情やライフスタイルの把握
定量的な区分では一見同じ年齢層でも、家庭環境や仕事観、趣味などによってニーズが大きく変わる場合がある。デプスインタビューを行うことでリアルなペルソナを描き出しやすくなる。
• UI/UXデザインの根底となる感性リサーチ
ウェブやアプリのUI/UXを改善する際、ユーザーがどのタイミングで戸惑うのか、何を感じるのかを詳細に知る必要がある。行動ログだけでなく、ユーザーが言葉にしづらい不快感や期待をデプスインタビューで掘り起こすことで、UX最適化への大きなヒントを得られる。
このように、コミュニティ形成やブランド戦略、リードナーチャリングなど、マーケティングのさまざまな場面でデプスインタビューは有効なツールとなり得ます。
デプスインタビュー実施プロセスと注意点
デプスインタビューの実施プロセスは以下のような流れが一般的です。
1. 目的と仮説の設定
調査の目的を明確にし、仮説を立てておく。ただし、回答内容に柔軟に対応できるよう、仮説はあくまでたたき台とする。
2. 被験者の募集とスクリーニング
ターゲットとなるユーザー層を決め、リクルーティングを行う。コミュニティのモデレーターやSNSでの募集など、様々なチャネルを活用する。
3. インタビューガイドの作成
質問リストを作りつつも、自由回答を促すための誘導質問や深掘りの仕方を用意。PDCAを意識して、実施後に修正できるよう柔軟性を持たせる。
4. 実査(インタビュー本番)
1対1の対話形式で、最低でも30〜60分、場合によっては2時間ほどかけて実施。無理に回答を誘導せず、沈黙の間を大切にしながら被験者の内面を引き出す。
5. 記録と分析
録音・録画の許可を得て、テキスト化する。分析では、キーとなるキーワードや感情の流れを抽出し、仮説との相違点を整理。必要に応じてテキストマイニングなどを活用する。
6. レポーティングと施策への転用
得られたインサイトを明確にまとめ、PDCAの”Plan”に反映。ブランドロイヤリティ向上やUI改善、あるいはステップメールの文面修正などに活かす。
注意点としては、インタビュアーのスキルが調査結果に大きく影響する点が挙げられます。誘導質問を避け、被験者の声を尊重しながら深堀りを進められるかが重要です。また、被験者の個人情報やプライバシーに関しては厳格な配慮が求められます。
デプスインタビューとグループインタビュー、エスノグラフィー調査との違い
フォーカスグループインタビューとの違い
フォーカスグループインタビューは複数の被験者を1つの場に集めて進めるため、グループダイナミクスを観察できる一方、1人あたりの発言量にばらつきが出たり、他の参加者の影響で本音が言いにくい懸念もあります。対して、デプスインタビューは1対1形式にこだわるため、他の参加者に忖度する必要がなく、より個人的な深い意見を引き出しやすい利点があります。
また、グループインタビューでは多様な意見の衝突や共感が観察できる半面、静かな人の意見が埋もれたり、コミュニティの傾向に引きずられるリスクも高いです。一方で、デプスインタビューは時間をかけて個人の価値観や体験に迫るため、仮に人数が多くは扱えなくとも、深い洞察を得たい場合に最適な手法となります。最終的には、定量調査や他の定性調査と組み合わせることで、消費者行動を多角的に理解するアプローチが理想的です。
エスノグラフィー調査との違い
また、類似した手法にエスノグラフィー調査があります。対象者の日常行動を妨げずに観察し、消費者心理を探る手法です。言語化されていない商品やサービスのニーズや購買の理由を明らかにすることに適しており、新しい商品やサービスの開発に役立ちます。
DX時代におけるデプスインタビューの役割
データドリブン施策が盛んになる一方、Cookie規制やサードパーティデータの不足から、コミュニティやファーストパーティデータの利用が重視されています。この状況で、デプスインタビューはDX(デジタルトランスフォーメーション)の過程で得られる行動ログや定量指標を補完し、ユーザーの深層心理を掘り下げるツールとして再注目を浴びています。
たとえばアプリやウェブサービスのUI/UX改善を行う際、ABテストでCVRや離脱率を客観的に把握できますが、なぜそこで離脱が起きるのか、ユーザーが何を感じているのかまでは定量データだけでは掴みきれないことが多いです。そこでデプスインタビューを併用し、当該ページや機能に対してユーザーが抱く戸惑いや期待を尋ねれば、設計意図とユーザーの認識のずれを補正しやすくなります。
また、AIエージェントなどが進化して行動ログを解析できる範囲が広がっても、人間の感情や文化的背景、微妙なニュアンスは機械だけでは捉えきれない部分があります。デプスインタビューがそこを補完することで、AI時代の戦略と人間中心のアプローチを両立できる点が、ユーザビリティとブランドロイヤリティを高める決定打となる可能性を秘めています。
デプスインタビューのデジタル化と今後の展望
デプスインタビューは今後もユーザーインサイトを掘り下げる定性調査の主要手段であり続けると考えられますが、オンラインで実施されるインタビューが増えることで、新たな課題と機会が同時に生じるかもしれません。直接対面しなくてもビデオ会議ツールで行うことで、地理的制限を超えて被験者をリクルーティングしやすくなる一方、表情や空気感といった細かな非言語情報が対面ほど豊かに得られないことがデメリットとなる場合があります。
また、マルチモーダル解析が進展すれば、録画したデプスインタビューの映像・音声をAIが解析し、被験者の感情変化や表情のゆらぎを精密に数値化することも可能になるかもしれません。こうした技術が進めば、従来のトランスクリプト(逐語録)だけでなく、感情やニュアンスの移り変わりをより定量的に捉える調査が一般化し、ハイブリッドな定性+定量の分析がさらに発展するでしょう。
一方で、プライバシーや倫理面の課題は軽視できません。Cookie規制や個人情報保護などの流れが強まる中で、デプスインタビューも被験者への事前説明やデータ管理体制の厳格化が求められます。今後は、こうした社会的要請に応えつつ、調査本来の深掘り機能を損なわない手法設計が探られていくはずです。
まとめ
デプスインタビュー(Depth Interview)は、1対1の形式で被験者と対話を重ねることで、深いレベルの感情や行動原理を引き出す定性調査手法です。クッキー規制や広告費の高騰、DXの浸透が進む時代においても、定量データやSNS広告の効果測定だけでは見えにくいユーザーの本音や隠れた需要を探り当てるうえで欠かせません。
コミュニティ形成やファーストパーティデータを活用する企業が増える中で、PDCAサイクルやABテストによってUI/UXを改善していくのが一般的ですが、この段階でユーザーの深層心理を知らないままだと根本的な課題を見落とす危険性があります。デプスインタビューはこうしたリスクを軽減し、ブランドロイヤリティ向上やリード獲得の質的改善に貢献します。
今後、マルチモーダル解析やAIがさらに進化すると、デプスインタビューの様子を自動で感情分析し、定量データとの統合が進む可能性も高いです。ただし、プライバシー保護や被験者が安心して話せる環境づくりは変わらぬ課題であり、調査担当者のスキルも大きく結果を左右します。デジタル化がますます進む一方、**人間の「言葉にしにくい想い」**を尊重するデプスインタビューは、マーケティングリサーチにおける決定的な補完役として今後も注目を集め続けるでしょう。