Account Engagement(旧Pardot)とは?ハイエンドMAの特徴と活用方法を徹底的に解説
「Pardotが名称変更したらしいけど、何が変わったの?」
「Salesforce Marketing Cloudとの違いがわからない…」
「MAは難しそうだが、Account Engagementなら何ができるのか?」
こうした疑問を持つBtoBマーケターは少なくありません。
Account Engagement(アカウント・エンゲージメント)とは、旧Pardotの後継ブランドとしてSalesforce社が提供する、BtoB特化型のマーケティングオートメーション(MA)ツールです。
単なる“名称変更”ではなく、BtoB企業がより高度なマーケティングと営業連携を実現するための思想と機能が進化しており、「見込み客をどう育て、どう売上につなげるか」をより構造的に設計できるようになりました。
本コラムでは、Account Engagementの定義、特徴、機能、使い方、Salesforceとの連携、導入ステップ、成功事例、他MAツールとの違いなど、BtoBマーケターが“今”知っておくべきすべてを体系的に解説していきます。
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- Account Engagementの定義と背景
- Account Engagementでできること:主要機能と活用シーン
- Salesforceとの連携と他MAツールとの違い
- Account Engagementの強み:BtoBに最適化された設計思想
- 導入ステップと初期設定のポイント
- 活用事例:導入企業での成果と工夫
- 運用の落とし穴と失敗しないためのヒント
- まとめ:Account Engagementは“営業とともに動くMA”である
Account Engagementの定義と背景
Account Engagementは、Salesforce社が提供する「B2Bマーケティングに特化したオートメーションツール」です。以前は「Pardot(パードット)」の名称で知られていましたが、2022年にブランド体系の見直しに伴い、「Marketing Cloud Account Engagement」へと名称変更されました。
その狙いは、“プロダクト名”から“機能思想”への転換です。
つまり、単なる「MAツール」という枠を超え、「営業と連携しながらアカウント(企業)単位で関係性を築く」というBtoBならではの文脈に軸足を置くようになったのです。
導入対象は、以下のような企業です:
- BtoB事業を展開し、複数人が関与する購買プロセスを持つ企業
- Salesforce CRM(Sales Cloud)をすでに利用している企業
- 営業活動とマーケティング活動の連携を仕組み化したい企業
Account Engagementは、見込み客の獲得・育成・選別・営業引き渡しまでを一気通貫で管理し、Salesforceと連携することで営業とマーケティングの協業を助けます。
Account Engagementでできること:主要機能と活用シーン
Account Engagementは、BtoBにおける「リード獲得→育成→選別→営業連携」の全体フローを網羅的に支援するプラットフォームです。ここでは、代表的な機能と、それが現場でどのように活用されるのかを具体的に紹介します。
フォーム作成とランディングページ管理
ノーコード(コーディングなし)でフォームやLP(ランディングページ)を作成でき、資料請求やセミナー申し込み、ホワイトペーパーダウンロードなどのリード獲得に活用されます。コンバージョン率や行動データは自動で記録され、リードデータベースに蓄積されます。
スコアリングとグレーディング
- スコアリング:見込み客の“行動”(例:メール開封、Web閲覧、DL)に応じて自動で点数付け
- グレーディング:見込み客の“属性”(例:業種、職種、会社規模)に応じてランク付け
これにより、「どれくらい興味があるか」と「自社に合っているか」の両軸でリードの優先度を可視化できます。
メールマーケティングとステップ配信
条件に応じた自動メール(ステップメール)を配信できます。例:資料をDLした翌日にサンクスメール、3日後に導入事例、7日後にウェビナー案内、といったナーチャリングの流れを仕組み化できます。
Engagement Studio(シナリオビルダー)
ドラッグ&ドロップで複雑な配信シナリオを視覚的に設計できる機能です。「条件分岐」や「遅延」「スコアに応じたアクション」などを設定し、個別対応のような精緻なフォローが自動化できます。
Salesforceとの連携による営業通知とリード移行
特定スコアを超えたリードや、フォーム送信したリードを自動で営業に通知可能。Salesforce Sales Cloudとのネイティブ連携により、営業担当者のSFA画面にナーチャリング履歴や行動ログが表示され、提案内容に反映しやすくなります。
レポート機能とROI可視化
どのコンテンツがリード獲得に貢献したか、どのキャンペーンが商談化につながったかを可視化。ROIを追いながら改善を回せるので、“戦略の判断基盤”として機能します。
Salesforceとの連携と他MAツールとの違い
Account Engagement最大の特長は、「Salesforceとの深いネイティブ連携」にあります。以下では、他のMAツールと比較した際の違いと、Salesforceユーザーにとってのメリットを解説します。
Salesforce CRMと画面・データがシームレス
Salesforce Sales CloudとAccount Engagementは同一のプラットフォーム上で動作するため、外部連携やAPI設定が不要です。リード情報や行動履歴がリアルタイムで同期され、マーケと営業の情報共有が断絶しません。
- Salesforce側で「今週スコア80超えになったリード」を抽出
- 商談化したリードの行動履歴をMA側で逆解析し、スコア調整
といった高度な活用も可能です。
マーケと営業が“共通のレコード”を見て動ける
HubSpotやMarketoなど、他のMAツールはSFAとの連携に一部制限があるため、リードの履歴やステータスが“マーケと営業で別物になる”ことがあります。Account Engagementなら、営業もマーケも同じ画面・データで判断が可能になります。
Account Engagementの強み:BtoBに最適化された設計思想
多くのマーケティングオートメーション(MA)ツールが「機能の多さ」や「テンプレートの豊富さ」を競う中、Account Engagementは明確に「BtoB営業の成果につなげるための設計思想」に軸足を置いています。そのため、BtoCとは異なる意思決定構造や営業フローを持つBtoB企業にとって、極めて使いやすく、効果の出やすいツールとなっています。
アカウント(企業)単位での思考にフィット
BtoBでは、1件の商談に対して複数人の関与者(現場担当者、決裁者、IT部門など)が存在します。Account Engagementは、個人(Lead)だけでなく、企業(Account)単位での関係性を管理できるため、アカウントベースドマーケティング(ABM)にも対応しやすい構造になっています。
営業のために整えられた情報ダッシュボード
マーケティング施策の履歴やスコア情報が、営業のSFA画面にそのまま表示されるため、営業は「なぜ今アプローチすべきなのか」「このリードは何に関心があるのか」を即座に理解できます。つまり、営業の“仮説構築”をデータで支援することができるのです。
スコアリングとグレーディングの組み合わせ
スコア=“今どれだけ興味があるか”
グレード=“自社にとって適した相手か”
この2軸の考え方が標準搭載されているのは、Account Engagementならでは。受注確度が高く、かつ営業に価値あるリードだけを可視化できるため、無駄な営業コストを大きく削減できます。
導入ステップと初期設定のポイント
Account Engagementは高機能な分、導入の際にはいくつかのステップと“準備すべきもの”があります。ここでは、導入から本稼働までの標準ステップを紹介します。
STEP1:目的・KPIの明確化
- リード育成の効率化
- MQL(マーケティング有望リード)の可視化
- 商談化率の向上
など、目的をチームで共有しておきましょう。目的により、スコア設計やメールシナリオが変わります。
STEP2:Salesforceとの接続とユーザー権限の設定
Salesforce環境がすでにある場合は、Account Engagementと接続することでリード情報が相互に同期されます。マーケと営業の役割に応じて適切な権限を設定することが重要です。
STEP3:トラッキングコード・ドメイン設定
Webサイトにトラッキングコードを設置し、訪問者行動の可視化を有効化。さらに、独自ドメインを設定してメール配信やフォームの信頼性を確保します。
STEP4:スコアとグレードのルール設計
営業の“経験値”と過去の商談データをもとに、スコアの加点ルール・グレードの基準を定義します。初期はシンプルでもよいので、運用しながら改善していく方が現実的です。
STEP5:コンテンツの準備
- ステップメールのテンプレート(検討初期〜商談誘導)
- ホワイトペーパーや導入事例などのDLコンテンツ
- LPやサンキューページの構築
MAという「仕組み」は「中身(コンテンツ)」がなければ機能しないため、事前準備が重要です。
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活用事例:導入企業での成果と工夫
Account Engagementは、単なるMAツールとしてではなく、“営業の成果を最大化する仕組み”として活用されることで、真価を発揮します。ここでは、実際に導入した企業での活用事例を通じて、どのような成果が生まれたのかを紹介します。
事例①:ITベンダーA社 – スコアリングによるホットリード抽出で商談化率が2倍
A社は、展示会やホワイトペーパー経由で大量のリードを獲得していたが、営業が手当たり次第にアプローチする非効率な状態に課題を抱えていた。Account Engagement導入後はスコアリングとグレーディングを組み合わせ、スコアが80点以上かつグレードB以上のリードのみを営業へ通知。
結果として、営業1人あたりの対応件数は半減したが、商談化率は2倍に向上。「本当に今アプローチすべき相手」に集中できたことで、営業部門の納得感と成果が両立した。
事例②:製造業B社 – ナーチャリングメールで休眠リードを再活性化
長期間フォローできていなかった休眠リードに対して、過去の行動ログに基づいたメールシナリオを設計。初回は業界動向、2回目は技術比較、3回目に無料相談の案内という流れで自動配信を開始。
想定以上の反応があり、数年前にホワイトペーパーをDLしていたリードが、半年後に成約。Account Engagementの「履歴データの長期保持」機能を活用し、“埋もれていた可能性”を掘り起こすことに成功。
運用の落とし穴と失敗しないためのヒント
Account Engagementは非常に強力なツールですが、うまく使いこなせていないケースも少なくありません。以下では、よくある失敗パターンとそれを回避するためのポイントを紹介します。
「とりあえず導入」で止まってしまう
MA全般にありがちなのが、「ツールを入れたけど何から始めればいいかわからない」という状態。Account Engagementも例外ではありません。
<対策>:
まずは営業部門と連携し、「どういうリードが来たら嬉しいか」「今困っているのはどこか」を対話することが最優先です。技術的な設定よりも、“目的と合意形成”がスタート地点になります。
コンテンツが不足して運用が止まる
シナリオは作れても、配信するメールやダウンロード資料が足りないと、動かしようがありません。
<対策>:
既存の営業資料やプレゼン、社内FAQなどをもとに、段階的にナーチャリング用のコンテンツに転用していくとよいでしょう。完璧を目指すより「とにかく動かしてみる」ことが大切です。
営業がスコアを信じてくれない
せっかくスコアリングしても、営業が活用しなければ意味がありません。
<対策>:
月次での“スコアフィードバック会”を開催し、「高スコアで受注した案件の傾向」「スコアが高かったのに失注した要因」などを共有することで、現場の理解と改善が進みます。スコアは“設計して終わり”ではなく、“共に育てるもの”です。
まとめ:Account Engagementは“営業とともに動くMA”である
Account Engagementは、従来のMAツールとは一線を画した存在です。それは、マーケティングが単独で動くのではなく、「営業と一体となって成果を出す」ことを前提に設計されているからです。
- スコアリングやグレーディングによって“誰にアプローチすべきか”を明確にし
- Engagement Studioで“どのように育成すべきか”を自動化し
- Salesforceとの連携によって“営業の提案活動”を強力に支援する
これらすべてが、営業成果につながる“デジタル起点の営業支援基盤”を形づくっています。
BtoBビジネスにおいては、「いかに早くホットリードに出会えるか」「そのタイミングを逃さないか」が、成否を分ける重要なポイントです。Account Engagementは、そのための仕組みと文化を、組織にもたらします。
今後、マーケティングと営業がさらにシームレスにつながる時代において、Account Engagementは単なるツールではなく、“売上を生むチームの共通言語”として、ますます重要な役割を担うことでしょう。
著者の紹介

株式会社マクロミル マーケティング部門ユニット長
橘 亮介
コーポレート及びプロダクトマーケティングのマネジメントを管掌。2015年からインサイドセールスの企画設計/KPI管理、KPIマネジメント、イベントマーケティング、WEBマーケティング、コンテンツ企画、MA導入・運用やインフルエンサー活用など、幅広い領域を経験後、2022年以降はマネジャーとしてマーケティングROIの管理や組織設計、全社マーケティング設計に従事。
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