集計の基本(4)

データを読み解く

集計表の読み方

分析軸や、事前のデータ加工等、色々と検討したうえで出力したクロス集計表を、いざ確認しようとしたら、膨大な量の数表に驚き、どの集計表から読み込んでいけばいいのか、分からなくなってしまう、ということはよくあることです。 かつて、PCがまだそこまで普及していなかった時代には、クロス集計表を印刷して紙ベースで確認することが一般的でしたが、ちょっとした電話帳くらいの紙束になってしまい、どのようにまとめあげてサマリーを作成したらいいか思い悩むリサーチャーや調査担当者も多かったでしょう。アンケートの質問数や分析軸の多さによっては、そのくらい膨大な量のクロス集計表が出てくることは現代でも変わりありません。 このような時は、どこから集計表を読み込んでいったらいいのでしょうか。

1. 横方向に数値を確認

日本では、横パーセント(横%)のクロス集計表がよく用いられます。どんなに集計表の量が多かったとしても、まずは落ち着いてクロス集計表の「全体行」を「横方向に数値を確認」することから始めることをお勧めします。最初に注力すべきは、全体行を俯瞰して眺めることで「その質問で得られた結果を大枠でつかむ」ことです。

図1 クロス集計表のデータの読み方① 全体行を横方向に確認

「この質問ではAを選んだ人が60%くらいで最も多く、2番目はB、最も低いのはC…」と回答結果の大枠を、視線を横に動かすことで把握していきましょう。

集計ソフトQuickCrossで出力した数表には全体行に比べて差が出でいる箇所がマーキングされていたり、色が塗られていたりするため、その数値が気になってしまうかもしれませんが、最初に個別の数値に着目するのではなく、まずは大枠をつかむことが大切です。

2. 縦方向に数値を確認

大枠が把握できたら、次は縦方向に数値を確認していきましょう。このとき、縦方向に1列ずつ全部数字を確認しようとするのではなく、以下の2点を中心に数値を確認していくと効率よくデータを読み込むことができます。

  1. データを横方向に動かした際に得られた情報 ※最も高かった/低かった項目など
  2. 全体との差分が大きい項目・分析軸(QuickCrossで出力した集計表の場合は、マーキング・色分けされている分析軸)

また、データを読み込んでいくこれらの過程の中で気づいたことを、集計表毎に箇条書きにとりまとめていくことも有効です。

このように横軸で確認→縦軸で確認→気づいたことをメモ、という流れで1つの集計表に目を通し終わったら、次の集計表に移ります。「アンケートデータの分析はクロス集計に始まり、クロス集計に終わる」とも言われています。『横から縦へ』で収集したデータを探り尽くしていきましょう。

%表、n表、n%表の使い分け

クロス集計表には、①%表(回答割合のみを記載した集計表)、②n表(回答者数のみを記載した集計表)、③n%表(回答割合、回答者数の両方を記載した集計表)と3種類の表し方があります。しかし、多くの人が「%表」を確認するだけに終わっているようです。『n表って、本当に必要ですか?』という疑問を持っている方も多いでしょう。若手のリサーチャーでもこのような疑問を持つ人は少なくありません。

調査結果報告書に掲載される数表やグラフ類は%表記されることがほとんどであるため、「n表」をみる必要はなさそうと考える方が多いのでしょう。しかし、「n表」を見ることでしか読み解けないこともあるのです。

例えば、アンケート調査において、最初に「プライベートブランド(PB)名の認知」を質問し、続いて「認知されたPBで買っている商品カテゴリー」を質問するような設計でデータを収集したケースを考えてみましょう。集計表を「%表」で確認すると図2、図3のようになります。

図2 「PB名の認知」の集計表(%表)

図3 「認知されたPBで買っている商品カテゴリー」のクロス集計表(%表)

「パンカテゴリーにおいて、最も購入者が多いPB」が何かを明らかにしたい場合、図3の%表を見ると、「セブンゴールド」であると判断しそうになってしまうでしょう。しかし、この図3の%表は、あくまでも「そのPBブランドを知っている人達が、何を買っているか」を表しているのです。ここで改めて図2を確認すると、「セブンゴールド」の認知率は、他の2ブランド「TOPVAL(トップバリュ)」「セブンプレミアム」と比べて約半分程度しかないことが分かります。 そこで、同じ調査結果をn表であらわしてみましょう。それが図4です。

図4 「認知されたPBで買っている商品カテゴリー」のクロス集計表(n表)

図4を確認すれば、「パンカテゴリーにおいて最も購入者数が多いPB」は「セブンプレミアム」であることが、明白です。 このように%表はとても便利ではありますが、全体のボリューム感を確認しなければならない場面では、読み解きが難しいのです。集計表を読み解く時は、%表のみを確認するのではなく、n表も合わせて確認し、全体のボリューム感を把握しながら数値を読み込んでいくことが大切です。

%表は、一方向での読み解き(今回の例の場合、横方向での読み解き=PB毎の購入製品の比較)に便利ですが、逆方向の読み解き(今回の例の場合、縦方向での読み解き=製品毎のPBの比較)には対応できない場合があります。しかし、n表であれば、横方向と縦方向両方の読み込みに対応することが出来ます。 また、実数(回答者数)のため、四則演算の自由度が高いこともn表の長所と言えます。手早く、短時間でデータを確認したいときにもn表は便利です。

なお、n%表であれば、回答割合と回答者数を同時に確認することができます。なれてくると、n%表で数値を読み込んでいくことが効率的です。外国ではこのn%表を好んで確認するプロフェッショナルも多いようです。

便利な「表側×表側」

質問数30問のアンケート調査で結果を読み込む際、クロス集計の分析軸として「性別」、「年代別」、「性別×年代別」、「購入頻度別」、「満足度別」…と10個を設定した場合、出力される集計表は全部で30問×10軸で300個となってしまいます。「横から縦」を意識しながら数値を確認していったとしても、これだけの数表があるとどこから確認していけばいいか迷うこともあるでしょう。特に報告までの時間が限られている際などは、効率的にデータを読み解いていくことが必要となります。

そんな時にお勧めしたいのが、「表側×表側」です。表側(=分析軸)に設定した項目を表頭にも設定し、出力された結果を優先的に読み込むことを意味しています。 分析軸として設定した表側アイテムは、何かしら違いが出るであろうと予測される、もしくは違いを確認したいからこそ、設定したものでしょう。「違いを確認したい」と考えているアイテム(=分析軸)どうしを掛け合わせて出した集計表からは、興味深い結果が得られる可能性が高くなります。

図5 PB購入状況調査で設定した分析軸(表側)

例えば、図5のような分析軸(=表側)を設定した場合を考えていきましょう。赤枠で囲ってある「PB品の購入抵抗感」と青枠で囲ってある「PB品の購入状況」を掛け合わせてみてみると、図6のようなクロス集計表となります。

図6 PB購入状況調査で設定した分析軸(表側)

図6を見てみると以下のようなことが読み解けます。

  1. PB品を買っている人のうち、若干の後ろめたさを感じている人(PB購入抵抗感が「どちらとも言えない」「抵抗がある」と回答した人)が2.9%いること
  2. PB品を買っていない人のうち、気持ち的には何ら抵抗感を感じていない人が5割近く(47.4%)いること

図7 分析軸どうしを掛け合わせたクロス集計表(n表)

さらに同じ集計表をn表でみてみましょう(図7)。青枠で囲われている数字の合計=調査回答者全体(1,034)となっています(全ての数字を1,034で割り、計算結果を足しあげれば100%になる)。そのため以下のようなことが読み解けます。

  1. PB品を買っていて、抵抗感がない人は全体の約54%(557/1034)であること
  2. PB品をあまり買っておらず、やや抵抗感がある人(黄枠で囲われている箇所)は全体の約16%(173/1034)であること

さらに、(3)や(4)の人達がどのような性年代の構成になっているのか等をさらに深く読み込んでいくと、面白い結果が得られそうです。 このように分析軸どうしの掛け合わせを行うことで、よい気付きが出てくれば、さらにそこから集計結果を深く読み込んでいくきっかけにもなるでしょう。「表側×表側」は、データに気づきを与えてくれる集計方法です。是非お試しください。

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