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各世代の価値観に影響を与えた政治・社会背景とは【タイ編】

アジアのターゲット市場で消費者調査を行うと、「なぜこういった傾向がみられるのか」と、スコアの解釈への悩みに直面することがあります。その裏には、各国の消費者意識に影響をあたえる「社会背景」「文化背景」等が必ず存在し、海外での調査データの分析で重要なポイントとなります。

そこで当社は、アジアにおけるマーケティング戦略や海外調査をご担当される方が調査企画を策案する際、有用な基礎情報源として活用いただける『アジア4カ国(中国・インドネシア・タイ・ベトナム)の生活者価値観レポート』をまとめました。本連載は、各国の有識者の知見に基づいた仮説と分析を、マクロミルが独自に実施した自主調査で検証するというスタイルでご紹介していきます。

今回は、タイの以下のような各世代が影響を受けた「政治・社会背景」について解説します。

  • 第1世代「Gen1」 ベビーブーム世代(近代タイの建国者)(1940~64年生まれ)
  • 第2世代「Gen2」 ジェネレーションX(政情不安世代)(1965~84年生まれ)
  • 第3世代「Gen3」 ミレニアル世代(テクノロジー世代)(1985~99年生まれ)
  • 第4世代「Gen4」 ジェネレーションZ(無関心世代)(2000年以降生まれ)

タイ人の価値観に影響を与えた政治・社会背景

不安定な政治と政治的実力者によるリーダーシップ

タイ人は、不安定な政治に慣れています。絶対君主制が廃止された1932年以来、タイでは25回の総選挙が実施されました。クーデターは19回も発生し、そのうち12回は成功しました。最も近いものは2014年に起きた、タクシン・チナワット元タイ王国首相(2001~2006)とその親族が起こしたクーデターです。国を赤のシンボルカラーとしたタクシン派(赤シャツ)と保守的な反タクシン派(黄色シャツ)の二つに切り裂く、厳しい政治的分裂を引き起こしました 。20年近くにわたりタイの政治を揺るがし続け、分裂は今でも続いています。

特に年配のタイ人は、元首相のプレーム・ティンスーラーノン陸軍大将のような、政治的実力者によるリーダーシップを好み、同元首相はタイのロールモデルの一人とされています。尊敬されているタイの外交官で、ASEANの創設者の一人でもあったタナット・コーマンは、「私たちの国の歴史を振り返ると、この国は専制君主的ではない権力下のほうがうまく機能し繁栄することがとてもよくわかります。ただし、その権力は国全体が一丸となって支持することのできるものであり、統一を目指す権力でなくてはなりません。」と言っています。

政治に対する姿勢の変化

政治に対する消極的な姿勢は変化し始めており、政治意識、政治的行動、政治的な考え方が芽生えてきています。

タイ人は政治的な活動やイベントに対しては消極的な姿勢を取ってきました。それは政治が流動的であり、自分たちの生活をただ通り抜けて行くもので、国の考え方にそれほど影響を及ぼすものでもないことが分かっていたからです。特に年配の世代(Gen1)はタイの政権制度は民主主義に限らなくてもいいという認識を持っており、政治にはあまり関わらない傾向があります。

若い世代も政治に対しては消極的で無関心な姿勢を保っています。しかし、2018年に自分たちの国が最も不平等な国として評価され(出典:Credit Suisse)、それを変えたいと考える若い世代が集まり、政治に関わっていこうとしています。国の権限による厳しい検閲があることにも気づいており、SNS上では気をつけて情報発信をしています。特にタイには王政に対する不敬罪法(lese majeste laws)があるため、注意が必要です。政党もSNSを利用するようになりました。例えば新未来政党(アナコットマイ政党)はSNS上で非常に大きな成果を出しており、主に学歴の高い都市部の若い人たちに支持されています。

また、興味深いことに、年齢に違いがあるにもかかわらず、バンコクの人たちは全世代を共通して、公共の場で政治の話はしないように教えられており、政治に関してはあまり声を上げません。タイの人口の1/3が住み、ほとんどが農村部である東北部の地域 (イーサーン)の人たちは、政治に対してはもっと落ち着いた姿勢であり、バンコクの人たちよりも政治にはもっと関わっています。

SNSやその他コミュニケーションツールを使って収集する情報

有識者の分析では、都市部の若い世代の政治への関心が高まっているとありました。定量調査で検証を行ったところ、SNSやその他コミュニケーションツールで「ニュース・社会の出来事」を情報収集するといった人は少なく、Gen4では26.4%に留まりました。若い世代社会への関心はまだそれほど高くはないことが表れています。

SNSやその他コミュニケーションツールで
「ニュース・社会の出来事」を情報収集する割合(世代別)

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SNSやその他コミュニケーションツールで「ニュース・社会の出来事」を情報収集する割合(世代別)

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タイ社会の根底にあった階級制度

Gen1~2世代は、階級制度が社会の中で根強く残っています。一方、Gen3~4世代は、西洋文化の影響で人々の意識の中に平等意識が芽生えています。育った家庭環境に関わらず教育を受けられる、もしくは、個人の才能があれば成功できるという実例を見てきています。そのため、階級制度に対しては無関心であり、階級制度を否定する人もいます。

タイにおける社会的な地位は、インドのような世襲型のカースト制のようなものでもなく、金銭的な尺度で判断されているわけでもありません。成功や体験してきた苦労、重要な機関とのつながりなどが関係しています。つまり、タイの階級制度は流動的なのです。例えば、ちゃんと話をすることができなかったり、素性が適切でない場合は、たとえ高所得な職に就き、人生で様々なことを達成していても、年長者世代はその人を見下します。上流階級の社会的規範を守っていないと判断されるからです。そういった背景から、この緩やかな階級制度は、社会的平等意識への変化を容易に許容させているものと考えられます。

人生の成功要因は?

有識者へのインタビューによると、Gen1~2世代は階級制度が社会意識の中で重要な意義を持ち、Gen3~4世代になると階級意識が薄れてきたと分析していましたが、タイ人の意識はどうでしょうか。

定量調査の結果でも世代間の意識の違いが反映されました。「人生の成功を規定する要因」として、上の世代ほど「家庭環境」の比率が高く、若い世代ほど「教育」の比率が高いことが分かります。若い世代は、与えられた社会階級に関わらず、自分の成功は自分で切り拓けるという意識へと変化してきているようです。

人生の成功を規定する要因(世代別)

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人生の成功を規定する要因(世代別)

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世代間の平等意識について、経済面から見てみましょう。経済成長の恩恵を受けている若い世代は上の世代に比べると、経済的に不平等さを感じていないようです。

経済的状況(世代別)

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経済的状況(世代別)

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世代ごとの政治・社会意識の違い

政治的に消極的だが保守的な姿勢のGen1

政治的にはあまり積極的ではありませんが、政治的実力者に権威を持って王国を先導して欲しいと考えています。

政治体制に振り回されたGen2

この世代にとって政治は重要です。国をタクシン派(赤シャツ)と、保守的な反タクシン派(黄色シャツ)の二つ分裂させたのはこの世代であり、今もまだ戦っています。非常に自信家であり、政治に対しても同じ姿勢を保ち、意思決定をしています。政治体制がこの世代の生き方と生きる姿勢を変えました。

政治から距離を置いて自己の価値観を確立するGen3~4

この世代にとって政治体制や社会階級制度は以前ほどの力を持っていません。人は、個々の自己アイデンティティと自己の価値観のために行動します。自分のアイデンティティは親が作るものではなく、自らがロールモデルを模索して自らの力で確立します。

若い世代のロールモデルは政治的リーダーよりも「セレブ」

上の世代が強い政治的リーダーに憧れを持ったのとは対照的に、若い世代にとってはスポーツ選手やセレブリティ(俳優など)などが憧れの対象で、ライフスタイルのロールモデルとなってきています。

「政治指導者」「スポーツ選手」「セレブリティ」に対する尊敬(世代別)

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「政治指導者」「スポーツ選手」「セレブリティ」に対する尊敬(世代別)

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以上が、タイの有識者の意見を交えた、各世代が影響を受けた政治・社会背景です。本連載では、研究で得られたインサイトをベースに、購買行動、テクノロジーの影響、家族とのかかわり、社会からの影響などをテーマに調査を行い、定量的にその内容を検証していきます。

次回は、「各世代の価値観に影響を与えた政治・社会背景【ベトナム編】」をご紹介します。

定量調査の調査概要
調査地域: タイ全土
世代別回答者数: Gen1(n=154/男性92、女性62)、Gen2(n=1,935/男性904、女性 1,031)、 Gen3(n=920/男性 377, 女性 543)、Gen4(n=1,049/男性380、女性669)
調査方法: インターネット調査
調査時期: 2020年2月
北島尚
株式会社マクロミル 海外事業開発ディレクター
米国フォーダム大学大学院修士課程修了。LVMHグループにてブランドマネージャー、PwCコンサルティングにて国内外の企業のマーケティング戦略プロジェクトに参画。その後、オグルヴィ&メイザーにて日本企業の海外ブランディングおよびマーケティングを支援するエキスポートプラクティスを起ち上げ、ジェネラルマネージャーとしてチームをけん引。現在は、マクロミルにて日本企業の海外市場における調査と戦略サポートを務める。

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