Askingに依存しない生活者インサイトの理解~今、価値が高まっているListening型調査~

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リサーチャーコラム

2017/3/20(月)

1.インサイト把握の重要性

顧客のニーズが見えない、リサーチを行っても「発見がない」……昨今、こういったご相談が増えています。
消費者の価値観の多様化・個別化が進んでいること。さらに経済・社会やデジタル環境の変化とともに価値観の変化スピードがますます速くなっていること、等を背景に、従来型の価値提供だけでは、市場や製品はコモディティ化していく一方です。企業目線だけでは “予想だにできない”、ものづくり・サービスづくりが問われるようになっているのです。
インサイト(insight)とは、直訳すると“洞察” “眼識” “直観”です。インサイトの重要性は以前から取り沙汰されていましたが、そんな今だからこそ、消費者の意識や行動を掘り下げて、本人さえ気づいていない意識を見抜くこと。消費者の心を洞察し、インスパイア(inspire)=新たな発見や発想を得ることが必要です。

例えば、トクホ飲料(お茶)を例にみると、同一カテゴリの商品であっても、飲料Aと飲料Bとでは、ターゲットを「どんな気持ちでどんな行動をしている人」と捉えているか(ターゲットインサイト)、その人たちに「どういう価値」(ベネフィット)を提供しようとしているか、が異なることが分かります。リサーチで、商品の提供する価値が適切にターゲットの心を射るためには、どんなことがあれば良いのか。自分に合うと思ってもらえるポイントや施策を明らかにし、商品開発やコミュニケーションアイデアに結びつけていくことが、より重要になっていると言えるのではないでしょうか。

表1

図1 トクホ(特定保健用食品)飲料おけるインサイトの違い

2.リサーチの新潮流 ~Listening型リサーチの浸透~

従来の代表的なリサーチ手法である、webアンケート調査やグループインタビュー調査は、聴きたい内容を調査票やインタビューフローという形に落とし込んで聴き出していく=Askingという形をとっています。が、このアプローチの場合、実態把握や消費者本人が意識・気づいていることは聴き出せますが、普段、自分の興味・関心や関与度が低いこと、無意識なことは、極端にいえば答えようがありません。そこで、インサイト探索のために、自然発生的に表れている消費者の声や行動を、ありのまま把握する=Listeningというアプローチを活用することも増えています。

1.Asking型リサーチ
:聞きたいことを調査票やインタビューフローに緻密に落とし込んで行う調査。インサイト探索や新しい価値、市 場創出に資するというより、利用実態や顕在的な意識把握、効果検証や改善に有効なアプローチ。
【手法例】定量調査、FGI/DI

2.Listening型リサーチ
:生活者のありのままの行動や、無意識下の行動・発言を観察、傾聴し、インサイトを発掘するのに有効。SNSやブログ等、Webの投稿データを収集・分析する「ノンオペレーショナル/コオペレーショナル」なアプローチと、行動や生体反応など、生活者の日常に入り込み、食事や買い物シーンなど、ありのままの行動・変化や生体反応などを観察・計測する「ノンバーバル」なアプローチ、に大別されます。
【ノンオペレーショナル/コオペレーショナルな手法例】ソーシャルリスニング、オンライン・コミュニティ等
【ノンバーバルな手法例】エスノグラフィ、ニューロリサーチ等

手法 内容
ソーシャルリスニング ソーシャルメディア上のリアルなつぶやき、意見、生活実態等の投稿を収集。発言の「量」の変化、発言の「質」の変化、ユーザーへの広がり等から、生活者の意識や行動を分析する。
オンライン・コミュニティ
MROC
特定テーマに関し、同じような関心を持つ生活者を特設SNSに招集。日記調査や掲示板投稿を通して、生活実態把握や参加者同士の意見交換、態度変容観察等を行う。
エスノグラフィ 自宅訪問等で生活者の日常生活、活動現場、行動を観察。観察から生まれた疑問や背景にある本人の意識、ヒストリー等文脈をまじえ、生活者を丸ごと理解する。
ニューロ・リサーチ
/生体反応計測調査
行動観察に加え、生活者の体験を通じて変化する感情・感性・生体反応を計測。応用脳科学、生理心理学等の科学的手法を用いて検証やインサイト探索を行う。
Web行動履歴×意識データ(AccessMill) Web上の行動履歴(WebサイトやWeb広告の接触情報)を取得。特定のサイトや広告接触者を抽出し、アンケート調査で意識データを収集、統合的に分析する。

表1 Listening型アプローチの手法概要

3.これからは“共創”の時代

このようにListening型アプローチのリサーチの根底には、従来の製品機能主義(スペック訴求、シーズ発想)ではなく、現実世界のコンテクスト(生活文脈)に沿って、多面的に、より深く、消費者を理解することや本質を捉えることへ。人間中心主義(生活者目線、生活者起点発想)の思想があります。さらに、変化し続ける顧客のマーケティング課題に寄り添うとか、新しい価値を持った新商品を開発するというような難しい課題の場合、Asking型アプローチやListening型アプローチを組み合わせて、解決の糸口をさがすというケースも増えています。例えば「エスノグラフィ」や「オンラインコミュニティ」「FGI/DI」を組み合わせて調査を実施。得られた知見、インサイトの発見を企業の担当者と共有するための「インプットワークセッション」を行い、それをベースに、新商品・新サービスの「アイディエ―ションワークセッション」を実施するというような形です。生活者目線を持って初めて、生活者の声の重要性に気付くことができます。あらゆるマーケティングデータに基づき、探索、発見、提案、実行支援までを顧客と共に創り出すこと。ひいては企業と生活者が新商品・新サービス開発をともに行うという“共創”がより活発になっていくのだと思っています。

図1

著者の紹介

和田久美

和田 久美

電通マクロミルインサイト 人と生活研究所所長
広告代理店系シンクタンク社員、マーケティングビジネス誌『月刊アクロス』 副編集長、カフェグローブ生活研究所を経て、2011年から現職。
オンラインコミュニティをはじめ生活者理解のための定性的な調査手法開発・運用や トレンド予測等を担当し、毎年、自主調査「生活予測」調査の実施、情報発信も手掛ける。
日本経済新聞社・新製品評価委員会委員、日経夕刊コラム「読み解き現代消費」執筆担当など。

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