テレビとデジタル、不等号の向きが変わると起こるそれぞれの機能の変化  その2

2017/10/2(月)

前回は、広告におけるテレビ×デジタルの統合効果について、基本の3つの効果を提示した。

一つ目は、「統合リーチ、つまりテレビでは獲れない(特に若年層)へのリーチをデジタルが補完する効果」
二つ目は、「テレビCMでは過少と過多に2極分化するフリークエンシー分布を、デジタルが補正することで認知効率を高める効果」
三つ目は、「テレビCMとデジタル広告がオーバーラップするところでの態度変容効果に注目して、購入意向のリフトを目指す効果」
である。

ただ、現状テレビをデジタルが補完するという関係は、消費者のメディア接触時間のデジタルデバイスシフトがより進むことで、変わってくるだろうと思う。多くの場合、「テレビCMで認知されて、ネットで刈り取る」という発想でいる今の考え方は、逆転するかもしれない。つまり、「デジタルでの訴求で素地をつくっておいて、テレビCMで刈り取る」という発想の転換が必要となる時期が来るということだ。

筆者は著書「新世代デジタルマーケティング」の中で、『山を盛るより谷を埋めよ』というフレーズを使っている。これは情報量の爆発的増加でテレビCMの残存効果が以前より期待できなくなっていることから提起していることである。つまり、テレビCMの効果の減衰が激しくなっている現状では、その効果延命のために「よりテレビCMのGRPを増やす(山を盛る)」のでは、予算がいくらあっても足りない訳で(A)、減衰しても谷底をデジタルで底上げしておくことの方がマーケティングコストの効率化ができる(B)という考え方だ。

同様に、デジタルで素地をつくっておけば、テレビCMの効果をもっとあげることができる(C)という意味でもある。

野球に例えるなら、「腐っても鯛」のテレビはスラッガーなので、1番バッターにするよりも、1番、2番、3番というデジタルが出塁しておけば、「4番テレビ」の一打で多くの点が入るという発想である。

テレビ×デジタルの方向性 最適アロケーションの考え方
テレビ×デジタルの方向性 最適アロケーションの考え方
テレビ×デジタルの方向性 最適アロケーションの考え方

図 山を盛るより谷を埋めよ

これらの考え方を踏まえると、ターゲットへのデジタルによる広告コミュニケーションは、いわゆる「ブランディング」目的でも大いに重要な役目を担うことになる。

まだまだデジタル広告はネットを販売チャネルとするようなマーケティングでの「刈り取り」機能として、企業内でもマス広告宣伝部とは別のダイレクトマーケティング事業部が使っているし、そこにしかネット広告を買い付けるスキル、ノウハウがないという企業も多いだろう。 しかし、本丸であるマス広告宣伝部がデジタル化しないと全く意味がない。 何度も言うが、「デジタルマーケティング」という特殊なマーケティングがある訳ではない。マーケティングそのもの、いや企業のバリューチェーンのすべてでデジタル化が起こる訳で、現状の企業活動が、いわゆる「アナログ」的活動であっても、そこにデジタル化の影響や恩恵がもたらされるのである。

その意味でも、マス広告中心の広告宣伝部がデジタル化すること、ブランディング活動のROIをつまびらかにして、より効果的かつ効率的な広告活動、ブランディング活動を目指すことが重要になる。

宣伝部とは、事業からお金を預かって、最も高い広告効果にして返す「ファンドマネージャー」のようなものである。預かったお金を「運用する」のである。目標の広告パフォーマンスにして返す「運用」力を手に入れなければならない。

例えば、前述したように、デジタル広告はターゲティング配信が可能であり、フリークエンシーコントロールが可能である。 「ターゲットである20代女性にはすべからくデジタル広告を最低3回以上は接触するように配信をしておく」ということができる。 テレビCMでは出来ない機能を十分に活用して、テレビCMとの相乗効果を醸成していくべきであり、広告接触者を全数で把握できる優位性もフルに活用すべきである。

デジタル広告は、広告機能をもつだけではなく、広告反応を知る調査機能も持つ。 筆者は従前から「反応した人がターゲット」と言っている。 企業が仮説でターゲット想定するだけでは、実際にそのようなターゲットが存在するのかさえ怪しい。デジタル時代には「ターゲット」とは「実証するもの」であり、デジタル広告配信は誰がどのようなメッセージに反応するかを知ることで、ターゲットと最適なメッセージのマッチングを図るものである。

調査視点で言えば、テレビ×デジタルは、数千人レベルのパネルしかいないテレビ調査率からスタートするのではなく、デジタル広告配信とDMPによる全数データを起点に広告接触者をマネージメントした上で効果分析したほうがいいだろう。 またCMのクリエイティブパワーも、視聴ログによる接触実態とアンケートによる意識調査(認知しているかどうか)の差異から計り知ることも意味があるかもしれない。

調査会社が今後より「マーケティング支援会社」となっていくためには、少なくとも広告マーケティング領域においてだけでも、「デジタル化」の方向にいくつもの視点があると言えるだろう。

著者の紹介

横山隆治

横山 隆治

1982年青山学院大学文学部英米文学科卒。同年(株)旭通信社入社。1996年インターネット広告のメディアレップ、デジタル・アドバタイジング・コンソーシアム(株)を起案設立。同社代表取締役副社長に就任。2001年同社を上場。インターネットの黎明期からネット広告の普及、理論化、体系化に取り組む。2008年(株)ADKインタラクティブを設立。同社代表取締役社長に就任。2010年9月デジタルコンサルティングパートナーズを主宰。2011年7月(株)デジタルインテリジェンス代表取締役に就任。

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